研究課題
エーラスダンロス症候群(EDS)は、皮膚や関節の過進展性と、各種組織の脆弱性を特徴とする疾患である。近年、本学医学部において、CHST14遺伝子変異を原因とする全く新しいタイプのEDS(DDEDS)が発見された。DDEDSでは、転倒などの軽微な外力で巨大な皮下血腫を生じ重篤な出血に至る症状が認められ、病態メカニズム解明と治療法開発が望まれている。しかしながら、本症は疾患概念が確立されて日が浅く、病態メカニズム解明や治療法開発には至っていない。本研究は、DDEDSの疾患モデル動物の確立と、病態メカニズム解明および、基礎医学的知識基盤を構築することを目的としている。そのために、本研究では、DDEDSの原因遺伝子であるChst14遺伝子欠損マウス(Chst14 KO)を用いた解析を行っている。研究代表者は、Chst14 KOを用いた検討を行い、ホモ接合体遺伝子欠損個体(Chst14-/-)の90%以上が胎生致死になることを確認した。また、胎生期のChst14-/-では、胎盤重量の減少や、絨毛膜板の血管異常(虚血や血管径減少など)が認められることを発見した。さらに、透過型電子顕微鏡による観察から、胎盤絨毛の毛細血管基底膜の菲薄化や断裂を新たに発見した。これらの成果は、平成28年度の国際人類遺伝学会で発表し、現在論文投稿準備中である。また、現在飼育中のChst14-/-は胎生致死のため成獣での解析が困難であるが、研究代表者は産仔数の安定した系統への戻し交配によってこの問題が解決出来ることを見出した。平成28年度には主に胎仔や胎盤を用いた解析を行い、Chst14遺伝子が血管の発生や機能に重要であることを発見したため、平成29年度には血管に着目した解析を継続して行い、また、よりヒトの病態に近い疾患モデルを樹立・病態メカニズムを解明するために、成獣を用いた解析を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、平成28年度には胎盤血管に関する解析や、安定したChst14-/-成獣の作出を予定していた。胎盤血管に関する解析では、研究実績の概要に記したようなデータや成果を得ており、国際誌への論文投稿についても予定通りである。Chst14-/-成獣の作出についても、産仔数の安定した系統への戻し交配(近交化)を、スピードコンジェニック法などを用いて行い、表現型解析を始められる段階にあるため、おおむね順調に進展している。
平成29年度には、前年度に樹立した近交化Chst14-/-の成獣を用いた解析を主に行う。創傷治癒モデルなどの皮膚血管に着目した解析を行い、平成28年度に胎盤で発見された血管異常が皮膚血管においても共通するのかを検討し、より患者の巨大皮下血腫の病態に近い疾患モデルの確立を目指す。また同時に、実験的負荷を加えない状態の動物についても解析を行い、生理的条件下での解析・評価を行う。さらに、より詳細な病態メカニズム解明のために、皮膚や血管の細胞の初代培養に関する実験条件の最適化と細胞の凍結保存を行い、平成30年度に行う予定の解析を円滑に遂行できるようにする。
当初予定していた学会出張や外注検査に必要な費用について、別の財源からの予算が得られ支払ったため。
平成28年に生じた次年度使用額は29年度請求額とあわせて、平成29年度後半~30年度に予定していたマイクロアレイ等の高価な外注検査を前倒しで行い、病態メカニズムの解明に向けた研究計画の効率化に役立てる。
すべて 2016 その他
すべて 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件) 備考 (2件)
http://soar-rd.shinshu-u.ac.jp/profile/ja.OCyUumkh.html
http://www.shinshu-u.ac.jp/institution/hito/i-animal/index.html