研究課題/領域番号 |
16K19410
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
戸高 寛 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 助教 (80769662)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 虚血性心疾患 / 心筋細胞 / アポトーシス / AChE / ACh / microRNA / 再灌流障害 |
研究実績の概要 |
虚血性心疾患(虚血や再灌流障害)は、心筋細胞のアポトーシスを誘導し、大量の心筋細胞を消失させる。これによる心臓のポンプ機能の低下は虚血性心疾患の予後悪化因子の一つに挙げられる。従って、虚血性心疾患における心筋細胞のアポトーシスの制御は基礎・臨床研究における重要課題の一つである。我々の研究室では、これまでに、心筋細胞から産生されるAChが虚血および再灌流障害によるアポトーシスに対して心筋を保護する「コリン作動性心筋保護システム」を見出してきた。しかしながら、近年、様々な細胞への虚血および再灌流障害はACh分解酵素(AChE)の発現を増加させ、アポトーシスを促進することが明らかとなってきた。これらの知見より、虚血性心疾患において発現上昇したAChEがAChを分解してコリン作動性心筋保護システムの破綻を誘導し、病態を悪化させている可能性が考えられた。そこで本研究では虚血性心疾患におけるコリン作動性心筋保護システムの賦活化および病態改善を目指し、AChEの発現をmicroRNAにて制御することを目的とした。 本年度は、心虚血再灌流障害のin vivo/vitroモデルの作製およびモデルの検証、AChEの発現測定を行った。in vivo/vitroの両モデルにおいて虚血再灌流障害を模倣しているか検証するために、低酸素およびアポトーシス指標因子であるHIF-1aおよびCL-caspase9, Bax/Bcl-2を測定した。その結果、両モデルにおいて上記の因子の発現が上昇していた。この結果は、両モデルにおいて低酸素およびアポトーシスが誘導されたことから虚血再灌流障害を模倣していることを示している。次に両モデルにおいてAChEの発現を測定した。その結果、AChEのバリアントの一つであるAChE-Rの発現が増加することを見出した。以上の結果より、虚血再灌流障害においてAChE-Rの発現上昇によりコリン作動性心筋保護システムの破綻が生じている可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度の研究により、心虚血再灌流障害を誘導したin vivo/vitroモデルにおいてAChEのバリアントの一つであるAChE-Rの発現が上昇することが見出された。当初の研究実施計画では、本年度にAChE標的microRNAをin silico解析により選抜し、両モデルに対してmicroRNAを投与する予定であった。しかしながらAChE-Rの機能に関する情報は少なく不明な点が多く残されていた。そこで我々は、まず、心虚血再灌流障害におけるAChE-Rの機能を解明するため、AChE-R遺伝子の過剰発現およびノックダウンを行うことにした。この機能解析は平成29年研究実施計画にある「心虚血再灌流を誘導したin vivo/vitroモデルにAChE-R標的microRNA投与して、microRNAの影響を分子レベルで検証する」ためにも必要な実験である。従ってAChE-Rの機能解析を優先して行う必要があった。この実験の準備(AChE-Rの過剰発現ベクター作製およびノックダウンに必要なカスタムsiRNA作製)に時間が掛かり実験計画の遂行に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
AChE-Rの機能解析後、平成28年度および29年度の研究実施計画に沿って以下の解析を行う。①AChE-Rを標的とするmicroRNAをin silico解析により選抜する。②心虚血再灌流を誘導したin vivo/vitroモデルにmicroRNAを投与する。③投与したmicroRNAのAChE-R発現抑制効果の検証を行う。④microRNA投与によるアポトーシス抑制効果、コリン作動性心筋保護システムの賦活化および心虚血再灌流障害の病態改善効果の評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
虚血性心疾患におけるAChE-Rの機能解析を優先して行ったため、予算の使用に時間的なズレおよび金額の差異が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、モデル作製用動物の購入費、細胞培養に必要な消耗品の購入費、生化学的解析に必要な各種抗体、RT-PCRキットやmicroRNAの購入費、および遺伝子やタンパク質の単離・精製キット等の購入費としての使用を計画している。繰り越した研究費はこれらの購入費に割り当てる。
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