本研究では心臓交感神経支配の詳細を明らかとし、急性心不全病態における脳心連関への介入という新たな心不全治療戦略の構築が目的である。平成28年度は蛍光タンパク質遺伝子を融合したNeuRetベクターをラットの心筋内に注入し、神経細胞体に発現させることで、心筋各部位を支配する交感神経節を同定することを試みたが再現性を持って発現が得られなかった。NeuRetベクターの骨格筋への打ち込みは前例があるが心筋への打ち込みは本実験が初回となる。再現性をもって発現が得られなかった理由としては心筋の交感神経密度や心拍動下での打ち込みなどの要因が影響している可能性がある。 そこで心臓へのNeuRetベクターの打ち込みは断念し、心臓交感神経系の上流経路への介入実験を考案した。近年星状神経節の神経細胞が肥大するneural remodelingという現象が発見され、交感神経活性亢進の持続性を説明し得る形態学的変化として、その病的意義が注目されている。しかし交感神経系全体におけるneural remodelingの全貌、そしてneural remodelingの分子メカニズムについてはほとんどわかっていない。我々は星状神経節へNeuRetベクターを接種し、蛍光タンパク質を脊髄中間外側核の神経細胞体で発現させ、星状神経節へニューロンを伸ばしている細胞体を同定することができた。またラット心不全モデルにおいて脊髄中間外側核のneural remodeling現象を確認した。今後は同現象に関与する神経栄養因子を明らかにし、これを標的としてNeuRetベクターを用いたタンパク発現によるneural remodelingの制御を試みる予定である。本研究の成果は、慢性心不全における脳心連関への介入による心筋リモデリングや致死性不整脈の抑制という斬新な治療法の開発の基盤となる。
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