大動脈弁に対する機械的応力、剪断応力分布と石灰化分布との相関性について、研究実施計画に基づいてデータ解析を行った.前年度の研究実績から大動脈弁二尖弁(BAV)の急激な狭窄進行は、偏向性の逆行性大動脈血流が原因という仮説のもと,大動脈弁通過血流と大動脈弁の石灰化分布解析を行った.併せて,偏向性大動脈血流が上行大動脈の形態および性状に与える影響を明らかにするため,心電図同期CTによるBAVと三尖弁(TAV)との比較を行った. 高度大動脈弁狭窄症(AS)患者において,背景因子の調整後もBAV群はTAV群に比して有意な上行大動脈拡大,伸長(elongation)および歪曲(tortuosity)が認められた.BAVではTAVに比して,有意に大動脈弁の石灰化量が高値であった.一方,上行大動脈の動脈硬化性変化を表すプラーク量は,TAVで有意に高値であった.BAVが大動脈形態に与える影響は,上行大動脈拡大と大動脈elongationが他の因子を上回った.本結果から,BAVでは動脈硬化性ではなく偏向性大動脈血流が上行大動脈の変形と拡大に影響を与えている可能性が示唆された. 今後はより低年齢,小児期での大動脈弁通過血流評価および長期間の前向きコホート研究が必要と考えられる.そこで我々は現在,岩手医科大学小児科学講座と共同研究を立案中である.同講座の協力のもと,小児BAV患者の研究参加への同意を取得する予定である.さらに小児期における大動脈弁に対する機械的応力、剪断応力分布が成人期における臨床像に与える影響について明らかにする予定である.
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