研究課題
急性心筋梗塞治療後の冠動脈微小循環障害における末梢血単球の病態的意義を明らかにし、急性心筋梗塞に対しての治療法を確立することが本研究の課題である。急性心筋梗塞において、以前我々は光干渉断層装置(OCT; Optical coherence tomography)を用いて冠動脈プラーク形態がカテーテル治療後の微小循環障害と関係性があることを明らかにした。また、これまでに特定の末梢血単球サブセットと冠動脈プラークの不安定化に関しての報告も多くされている。急性冠症候群発症の機序として冠動脈プラーク破裂後の血栓形成が関与していると言われているが、破綻した冠動脈プラークの多くは無症候性に経過することが知られている。従って、どのような因子が、冠動脈プラーク破裂後の急性冠症候群発症に関与しているかを解明することは臨床的に非常に重要であると考えられる。そこで我々は本研究に先だって、急性冠症候群の発症機序と炎症性細胞である特定の単球サブセットとの関係性について検討する研究を行った。急性冠症候群発症の機序に関して炎症性細胞である特定の単球サブセットとその細胞表面マーカーであるTLR-4(Toll-like receptor-4)および病変局所の炎症および血小板との相互作用(P-selectinとその受容体であるP-selectin glycoprotein ligand-1 (PSGL-1))により、冠動脈内の血栓形成を促進するマーカーであるPSGL-1を測定した。急性心筋梗塞発症の責任冠動脈病変をOCTで観察し、プラーク破裂や血栓像の有無と特性の単球サブセットおよびその細胞表面マーカーであるTLR-4、PSGL-1との関係性を検討した。
2: おおむね順調に進展している
急性冠症候群患者45人(急性心筋梗塞20人、不安定狭心症20人)に対して冠動脈ステント治療時にフローサイトメトリー法を用いて末梢血と冠動脈局所血の単球サブセットを測定し、OCTで取得した画像を比較検討した。また比較対照として、安定狭心症患者および冠動脈狭窄を有しない患者の末梢血単球サブセットも測定し、比較・検討した。その結果、急性冠症候群の特定の単球サブセット上に発現するPSGL-1およびTLR-4が有意に上昇していた。特に急性心筋梗塞患者において有意に高かった。また末梢血と冠動脈局所血で比較した場合、冠動脈局所において特定の単球サブセット上に発現するPSGL-1およびTLR-4が有意に高かった。また、OCT画像との比較・検討ではプラーク破裂および血栓像を認めた患者において特定の単球サブセット上に発現するPSGL-1およびTLR-4が有意に上昇している結果であった。現時点での研究は概ね順調に進展しており、今後の研究課題に関しての研究に取り組んでいく予定である。
今回の研究で急性冠症候群発症後は特定の単球サブセットとその表面に発現するPSGL-1が上昇することがプラーク破裂後の血栓形成に関与していることが明らかとなった。以前、我々のOCTおよび心臓MRIを用いた研究から、急性心筋梗塞患者において冠動脈責任病変に含まれる脂質成分がステント植込みにより放出され、no reflow現象(心筋の微少循環障害)生じることが明らかになっている。急性冠症候群治療においてステント治療に成功しても心筋の微小循環障害が起こり、心筋ダメージの大きい症例を認めるという問題がある。こういった問題に対して、本研究課題である急性心筋梗塞後の心筋の微少循環障害と単球サブセットの関係を解明することが治療戦略において非常に重要であると考える。微少循環障害と単球サブセットの関係を解明することができれば心筋ダメージを軽減でき、急性期の新たな治療戦略だけではなく慢性期を含めた予後改善効果にも大きく貢献できると考える。
本研究の実験は既に終了しており、実験結果も概ね纏まっているが、学会発表や論文投稿などの最終報告を達成する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Circulation Journal
巻: 81 ページ: 837-845
10.1253/circj.CJ-16-0688