研究実績の概要 |
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は難治性疾患であり、特発性PAHや遺伝性PAHでBMPR2,ACVRL1,ENG,SMAD8,CAV1遺伝子などが発症に関与している。特にBMPR2遺伝子の点突然変異やエキソン欠失および重複などの異常がPAH症例の約三分の一に検出される。しかしPAH症例にはBMPR2遺伝子変異を認めないにもかかわらず末梢血中のBMPR2 mRNA量が減少しているものがしばしば観察される。すなわちBMPR2遺伝子に未解明の変異が残されている可能性がある。他の多くの遺伝性疾患に見られるようにイントロン内の点突然変異/欠失/重複/転座に起因するスプライシング変異、またはエピジェネティクスな変化によるスプライシングバリアントの増加によりナンセンス変異依存mRNA分解機構(NMD)が発動していると推測する。本研究ではPAHでのスプライシング変異NMD仮説を次世代シークエンサーが苦手とする欠失/重複/転座を検出する解析法等を確立し未解明変異制御機構への挑戦を行う。 当該年度では、BMPR2 mRNAスプライシングバリアント検出法を確立した。確立したスプライシングバリアント検出法を用いてBMPR2遺伝子変異陽性症例の末梢血と剖検組織、PAH非疾病者の末梢血検体を用いて、組織特異的および末梢血中に一般的に発現しているスプライシングバリアントの有無を検証した。スプライシングバリアントが生じているものは可能な限り塩基配列解読によって同定した。前年度ならびに当該年度で解析系の確立を概ね終えたため未解明変異制御機構の検証準備が整った。次年度はPAH発症に関わる潜在するBMPR2の遺伝的変異とエピジェネティクスの詳細を検証し発症メカニズム解明と早期診断への応用を図る。
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