研究課題
大動脈解離は中高年に突然発症する致死性疾患であり、その病態が明らかでないために診断・治療法は確立していない。解離病態における増殖応答の重要性はこれまでにも示されているが、その詳細なメカニズムは依然不明である。本研究は増殖応答に着目し、解離病態の分子メカニズムを明らかにするものである。野生型マウスにコラーゲン架橋酵素阻害薬BAPNとアンジオテンシンIIを投与すると約2週間で解離を発症する(BAPN)。これに対してラパマイシンを投与すると解離発症は完全に抑制された。ラパマイシンの作用分子であるmTORは、増殖応答以外にも蛋白合成、血管新生、免疫応答などその機能は多岐にわたることから、解離病態において鍵となる機能を明らかにするため網羅的遺伝子解析を行った。その結果、増殖応答関連遺伝子のみで発現変動を認め、このことからmTORを介する解離病態において増殖応答が必須であることが示された。解離大動脈組織において増殖応答は主に外膜および外側中膜で起こっていることから、増殖応答が亢進している細胞を同定するため免疫組織染色を行った(計画2)。その結果、炎症細胞(CD45陽性細胞)において増殖応答が亢進していることが明らかになった。今後さらに同定を進める予定としている。また、解離発症におけるラパマイシンの抑制効果は明らかになったものの、解離進展に対する効果、すなわち解離進展におけるmTORの役割については明らかでないことから、現在モデルマウスの作成およびラパマイシン投与実験を行っている(計画1)。現時点では解離進展についても抑制傾向が示されている。本研究によりmTORを介する解離発症メカニズムが明らかになれば、診断マーカーの開発や、手術適応とならない症例に対する内科的な解離進展、再解離の予防治療など、新たな診断、治療法開発への発展が大いに期待される。
2: おおむね順調に進展している
当初申請した際の実験計画では実験3(ヒト組織培養)まで着手する予定であったが、当初の計画ではなかった遺伝子解析を行うことにより上述の通り大変意義のある成果が得られた。この結果は研究の実現性を高めるものであり、未着手の計画を補うものと考える。
現在進行中の計画を継続するとともに、未着手である計画3、4(マウス細胞培養)にも着手する予定としている。
実験に必要な機材、試薬、消耗品などについてすでに当研究所で有しているものを合わせて使用したため、費用削減につながり、次年度使用額が生じた。
今後の実験や論文校閲に使用する。
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