研究課題
本研究は肺動脈に付着し増殖する細胞を用いて慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の病態を反映する動物実験モデルを作成し病態解明を目指すものである。平成28年度中はまずCTEPH器質化血栓の手術献体から二次的に発生した肉腫様細胞(SCLs)の動物への投与を行った。通常の免疫が働くSDラットでは免疫系に排除されるためSCLsは生着しなかった。一方、T細胞免疫を欠いたヌードラット(F344ヌードラット)では肺動脈のみにSCLsの生着および肺動脈内での腫瘍増殖が認められた。しかし、悪性細胞であるが故生存期間は2ヶ月程度と長期生存が得られず、また衰弱のため右心カテーテル検査中に動物が死亡するなどの問題点が発生し、対応を検討している。一方、平成28年中にCTEPHと同様に肺動脈内で発育する血管内膜肉腫細胞の細胞株化に成功した。この細胞はF344ラットおよびSCIDマウスに対する静脈内投与にて肺動脈のみに生着する特性を明らかにしている。この血管内膜肉腫細胞をF344ヌードラットへ静脈内投与し、SU5416投与及び低酸素曝露を加えたところ、6週目で肺動脈収縮期圧58mmHgと中程度の肺高血圧症が発生しすることが判明した。その時点でも全身状態は保たれており、長期生存も期待できると考えている。生存期間や肺高血圧症のさらなる進展については今後検討予定である。
2: おおむね順調に進展している
当初検討を予定していたCTEPH由来の肉腫様細胞(SCLs)での検討は動物の長期生存を得ることが困難である事が判明し、モデル動物作成についての方向性の再検討が年度途中で必要となった。しかし、平成28年度中に当グループで新しく細胞株化した「肺動脈血管内膜肉腫細胞(PIS-1)」を用いて追加実験を行った所、長期生存とモデル作りが両立可能である見込みが出てきている。現在そのPIS-1の特徴を明らかにする解析を行っており、CTEPHのモデル作りへの妥当性の検討を行っている。
平成28年中に得られた「肺動脈血管内膜肉腫細胞(PIS-1)」を動物へ静脈内投与する実験を継続する予定である。この実験を通し、長期生存が可能か、肺高血圧症の進展度および血管リモデリングの進展度と中枢肺動脈の閉塞度の関連などについて検討を進める予定である。また当科のみで保有しているCTEPH由来の肉腫様細胞(SCLs)と「肺動脈血管内膜肉腫細胞(PIS-1)には肺動脈のみに接着し増殖するという極めて特異的な特徴が存在する。接着因子や増殖因子を中心としたこの二つの細胞株の解析は、肺動脈内で細胞が増殖する機序の解明及びモデル動物作り、CTEPHの病態発生機序解明につながるものと考え、検討を予定している。
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