研究課題
本研究は慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の手術検体から抽出した細胞を動物に投与し、肺高血圧症も出ると組み合わせてCTEPHの動物モデルを構築することを目的とした。我々のこれまでの研究で得られていたCTEPHの器質化血栓から発生した肉腫様細胞(SCLs cells)を通常免疫をもったSDラットおよびT細胞免疫を欠いたF344ラットに静脈内注射し、肺高血圧処理を行い検討した。しかし、細胞の定着率が一定せず、肺高血圧症といえるだけの肺動脈圧上昇が得られないなどの問題点が発生した。肺高血圧症処理を行う際には動物を10%O2低酸素環境に3週間飼育するが、そのことが細胞の生着率に影響を与えているものと考えた。肺動脈内により高率に生着する細胞の探索など、研究の方針の修正が求められた。研究期間中に肺動脈に発生する肺動脈内膜肉腫の手術検体を得ることができ、この手術検体から細胞を分離し、細胞株として樹立した。この細胞をSCIDマウスやラットへの静脈内投与を行ったが、残念ながら酒杯動脈から区域肺動脈にかけての肺動脈病変を形成することはできず、肺野末梢に肺転移巣を形成するのみであった。CTEPHモデル作成を得るためには数ヶ月程度の生存が必要と考えるがまた極めて悪性度が高い細胞で長期生存を得ることができなかった。一方、肺動脈内膜肉腫細胞では血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)や血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)などが高発現し、これらを阻害するチロシンキナーゼ受容体阻害薬であるPazopanibがこの細胞の増殖や腫瘍増大を抑制することを発見した。本来の目的を離れた副次的な産物であるが、本研究の成果はこうした肺動脈原発腫瘍の今後の治療進歩に寄与しうるものであると考える。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
PLoS One
巻: 14 ページ: e0214654
10.1371/journal.pone.0214654