研究課題/領域番号 |
16K19452
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
田村 大介 神戸大学, 医学部附属病院, 非常勤講師 (80646597)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | EGFR-TKI / 皮膚毒性 / アダパレン / エルロチニブ |
研究実績の概要 |
上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI)使用に伴う有害事象として皮膚障害の頻度は最も多く、有害事象に伴うEGFR-TKI使用中断の最も大きな理由となっており、その制御はEGFR-TKI使用における最大の課題のひとつである。本研究の目的は、EGFR-TKI誘導性の皮膚毒性に対するアダパレン(ディフェリンゲル)の薬理作用についてin vitroの系でヒト表皮角化細胞を用いた実験で評価することである。H28年度は、ヒト表皮角化細胞株HaCaT細胞を1 μM、10 μM、25 μMと3段階の濃度のエルロチニブ(タルセバ)に、生態環境を模してサイトカイン(TNFα 10 ng/ml + IL-1β 5 ng/ml)を加えて刺激しEGFR-TKI誘導性の炎症を誘発した。治療薬としてアダパレン25 nMを投与し24時間後にHaCaT細胞からcDNA合成を行い、qRT-PCRで解析したところ、CCL2、IL-8、CCL27、CXCL27などの炎症性サイトカイン産生がアダパレン投与により非投与群に比較して有意に抑制されることを明らかにした(p<0.05)。一方で抗菌ペプチドや細胞間接着因子などの上皮防御因子のEGFR-TKIによる産生低下に対する改善効果はアダパレンには認められなかった。アダパレンの作用機序を明らかにすることで、EGFR-TKI誘導性皮膚障害の発生機序についても新たな知見が得られることが期待され、またアダパレンの適正使用も可能になると考えられる。皮膚障害のコントロールはEGFR-TKIの有効使用にもつながり、肺がん治療の改善に直結することが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EGFR-TKIの投与により生じる炎症性サイトカインの産生促進、抗菌ペプチド、接着因子などの上皮防御因子の産生低下などに対するアダパレンの作用点を調べる実験に関しては研究実績の概要に記載した通り概ね終了した。もう一つ当該年度に予定していたwound-healing assay系を用いたアダパレンによる上皮修復促進効果の解析は現在、実験中でああり、近日中に終了予定である。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度の実験結果により明らかにされたアダパレンによる炎症性サイトカインの産生の抑制を介した抗炎症効果の作用機序の解明を行う。アダパレンはRARγに結合することでレチノイド様作用を示す薬剤である。表皮細胞がEGFR-TKI刺激を受けたときに細胞内のRARγがどのように変化するのかについては、今までのところ報告はない。RARγはアダパレンと結合すると核内へ移行し、その機能を発揮することが知られている。また、炎症性サイトカインの転写をコントロールしている核内転写因子のNFκBはEGFR-TKIの刺激で誘導されることが、がん細胞を用いた実験では明らかにされている。そこで、まずEGFR-TKIによりHaCaT細胞を刺激して、p50、p65(それぞれNFκBコンポーネント)、RARγの発現をウェスタンブロット法により評価する。また、アダパレンの付加によりそれらのタンパクの発現に変化が生じるかを観察することにより、アダパレン投与に伴うNFκBの挙動を検討する。続いてEGFR-TKIによるNFκB活性についてNFκBのコンポーネントであるp65サブユニット活性を細胞核内タンパクを用いて測定するTransAMキットにより測定し、アダパレン付加によりその活性が抑えられるかを評価する。NFκBの活性が抑えられたとすれば、アダパレンによるRARγの活性化によりNFκBの活性が抑えられたことが示唆される。このようにRARγとNFκBとの相互作用を解析することで、アダパレンの薬理機序の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度に予定していたwound-healing assay系を用いたアダパレンによる上皮修復促進効果の解析まで実験が至らなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
ウェスタンブロット用の抗体、実験用試薬、ELISAキットなどの実験用試薬・器具などの消耗品とガラス器具、プラスチック器具などの購入費用として900,000円を使用する。また、皮膚の初代培養細胞株の購入、培養費用として300,000円を使用する予定である。
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