研究課題/領域番号 |
16K19453
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山本 正嗣 神戸大学, 医学部附属病院, 特定助教 (40542139)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スフィンゴ脂質 / S1P |
研究実績の概要 |
細胞膜の構成成分であるスフィンゴ脂質の代謝産物であるスフィンゴシン1リン酸(S1P)は、シグナル伝達物質として気道のリモデリングやアレルギー性免疫応答に関与していることことを先行研究から明らかにしてきた。本研究の目的は、上皮間葉系細胞と炎症細胞との相互作用に着目して、好中球性炎症が中心病態である急性肺障害(acute lung injury: ALI)/急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)におけるS1Pの役割について明らかにすることである。そこでまず、肺胞上皮細胞株のA549を1 μMのS1Pで0、3、6、12、24時間15 μg/mlのLPSとともに刺激を行い、qRT-PCRでTNF-αのmRNAの発現を解析したが、S1Pによる炎症の増強は見られなかった。続いて1 μMのS1Pで26時間、15 μg/mlのLPSで24時間刺激を行い、qRT-PCRで炎症性サイトカインのmRNAの発現を網羅的に解析したところ、TNF-α、G-CSF、CCL2、CCL4、IL-1β、IL-6、でS1Pは仮説に反して炎症を抑制している傾向にあった。 本研究によって好中球と上皮間葉系細胞の相互作用におけるS1Pの役割を中心とした新たな好中球性炎症の分子機構を解明することができると予想しており、現在のところ有効な治療法がなく、極めて死亡率の高い疾患に対する新しい治療標的の開発につながることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H28年度に予定していた実験1. LPS誘導性のALI/ARDSマウスモデルを作成とSPHK、S1Pの発現解析が、院内規定の動物実験申請書の作成だけにとどまり、実験の開始まで至らなかった。H29年度には速やかに実験を開始し、遅れを取り戻す予定である。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度はLPS誘導性のALI/ARDSマウスモデルを作成し、LPSの投与前後での肺組織を取り出してSPHK、S1Pの発現を免疫染色、qRT-PCRで解析する。引き続いてマウスの血液等からセルソーターを用いて好中球とマクロファージを単離培養して、S1PRの発現をqRT-PCRで解析する。次に、好中球とマクロファージの活性化、遊走能に与えるS1Pの役割をS1Pによる刺激実験で明らかにする。さらに活性化した好中球とマクロファージからのサイトカインやメディエーターの放出へのS1Pの影響、活性化した好中球からの好中球エラスターゼなどの組織傷害因子の放出へのS1Pの影響を解析し、最後に、S1PR阻害剤あるいはS1PRアゴニスト/アンタゴニストを用いて、LPS誘導性のALI/ARDSの治療実験を行い、これらがALI/ARDSの治療標的となり得るか検討を行う。 本研究により、ALI/ARDSに対するS1PR阻害剤あるいはS1PRアゴニスト/アンタゴニストの治療効果が見られない場合も想定しているが、その場合は、S1Pで上皮細胞を刺激して変化する遺伝子をトランスクリプトームで解析し、炎症性サイトカインの分泌シグナルにおけるS1Pの役割を解析するなど、上皮細胞におけるS1Pの役割を解明する研究を行い、結果を報告する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H28年度に予定していた実験1. LPS誘導性のALI/ARDSマウスモデルを作成とSPHK、S1Pの発現解析が、院内規定の動物実験申請書の作成だけにとどまり、実験の開始まで至らなかった為。
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次年度使用額の使用計画 |
フローサイトメトリー用の抗体、実験用試薬などの実験用試薬とガラス器具、プラスチック器具などの消耗品の購入費用として900,000円を使用する。また、実験用動物の購入費用と維持費用して200,000円を使用する予定である。
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