慢性炎症性肺疾患である特発性肺線維症は高頻度に肺癌を合併する。慢性炎症の分子シグナルが癌を誘発する可能性があるが、肺の線維化から癌化への移行機序は明らかではない。肺線維症を合併した肺癌の治療は限定されており、早期発見、新規治療の開発に繋がる両者の病態解明が望まれている。 研究代表者らは肺癌の癌抑制性マイクロRNAの中に細胞外マトリックスに関連する遺伝子群を制御するマイクロRNAがあることを明らかにした。さらにこれらの癌抑制性マイクロRNAは肺線維症の病変部においても発現が抑制されており、線維化から癌化への移行に関わる病態解明の糸口となりうるものと考えた。 本研究では、特発性肺線維症・肺癌臨床検体を用いて、マイクロRNAの発現解析及び疾患特異的に活性化している分子経路を検証した。また、マイクロRNA導入細胞の網羅的な発現解析、データベースの活用、臨床検体の発現情報を組み合わせる事で、マイクロRNAが制御する蛋白コード遺伝子、分子経路の探索を行った。 平成28年度の研究では、肺癌合併肺線維症の臨床検体においてmiR-29の発現が抑制されていることを明らかにした。miR-29は癌抑制性マイクロRNAであり、細胞外マトリックス分子であるLOXL2やSERPINH2を抑制しており、肺癌、肺線維症の双方の病態において関連している可能性を見出した。 平成29年度は小細胞肺癌にも目を向け、剖検検体を用いたマイクロRNAのプロファイリングを用いて研究を進めた。発現が抑制されているmiR-27a-5pおよびmiR-34b-3pがTOP2A、MELK、CENPFおよびSOX1を調節していることを見出した。これらは小細胞肺癌の病因に関与していると推測された。 今後、これまでに解析を行ってきた肺癌の癌抑制性マイクロRNAと肺癌合併肺線維症におけるマイクロRNA発現プロファイルを起点として、特発性肺線維症・肺癌に共通する機能性RNAを探索し、両者の病態に関わる分子経路を明らかにするべく研究を継続している。
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