研究課題
申請者はこれまでに、肺サーファクタント蛋白質D (SP-D) が野生型上皮増殖因子受容体 (EGFR) の細胞外ドメインに存在する高マンノース型糖鎖に結合し、EGFRのリガンド結合を阻害することで、EGFシグナルを抑制し肺がん細胞の進展を抑制することを明らかにした。また変異型EGFRの肺腺がん患者の解析において、治療前の血清SP-D高値群では全生存期間が有意に延長していることがわかった。本申請課題ではSP-Dの変異型EGFRに対するシグナル抑制作用の機序を解明し、臨床応用につながる知見を得ることを目的とした。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)感受性のヒト肺線がん細胞株HCC827細胞 (エクソン19欠失:del19) 、H3255細胞(L858R)、TKI耐性のH1975細胞(L858R/T790M)において、SP-DはEGFRリン酸化と下流シグナルを抑制した。del19、L858R、del19/T790M、L858R/T790Mの各変異型EGFRを強制発現させたCHOK1細胞でも同様の結果が得られた。SP-DはHCC827細胞、H3255細胞、H1975細胞の増殖を抑制した。クロスリンキングアッセイでは、SP-Dは変異型EGFRのリガンド依存性および非依存性の二量体形成を阻害した。ゲフィチニブ感受性のHCC827細胞、H3255細胞に対して、SP-Dとゲフィチニブを併用すると単独投与と比較して、細胞増殖がより抑制された。ゲフィチニブ耐性のH1975細胞に対しては、T790Mにも感受性を持つ第3世代EGFR-TKI(ロシレビニブ、WZ4002)とSP-Dを併用したが、単独投与と比較して細胞増殖がより抑制され、SP-DとEGFR-TKIには相加効果があると考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
SP-DはTKI感受性の変異型EGFRシグナルを抑制することを明らかにしたが、TKI耐性のH1975細胞およびDel19/T790M、L858R/T790Mの各変異型EGFRを強制発現させたCHOK1細胞に対しても、SP-Dがシグナル抑制作用を示すことを確認することが出来た。さらに二量体形成が阻害される細胞内キナーゼドメインの点変異 (L704RとI941R)をdel19、L858R、del19/T790M、L858R/T790Mといった各変異型EGFRに追加導入し、CHOK1細胞へ安定発現させることが出来た。これまでの報告どおり、del19やT790Mは二量体に依存せずにEGFRリン酸化が検出できることを確かめた。また肺がん患者の手術検体の免疫染色を開始することが出来た。以上より、当初の計画以上に研究が進展していると考えている。
(1)二量体形成に依存せず活性化するdel19/I706、del19/V948R、del19/T790M/I706Q、del19/T790M/V948R、L858R/T790M/I706Q、L858R/T790M/V948Rといった変異型EGFR安定発現CHOK1細胞に対して、EGFRの自己リン酸化をSP-Dが抑制するかを検討する。(2)EGFR-TKI耐性化の機序として、肝細胞増殖因子を介する (HGF/MET) シグナルの増強も重要だが、HGFやMETも糖鎖を有する糖タンパク質であるためSP-Dが結合する可能性があり、両者の相互作用を解析する。(3)前年度に開始した肺がん患者の手術検体の免疫染色の解析を行う。(4)HCC827細胞をヌードマウスの背部へ皮下移植し、リコンビナントSP-Dを尾静脈から投与することで腫瘍形成が抑制されるか解析する。
研究が予定よりも早く進展していたためと、申請者が所属する研究室で使用していたフリーザーが故障し早急に買い換える必要が生じたため、前倒し請求を行った。しかしフリーザーは申請者が所属する研究機関内の別の予算で購入することができることになったため、残額は次年度使用額とすることとした。
実験に必要な抗体や試薬の多くは購入しているので、次年度使用額は不足した試薬を購入したり、消耗品の購入に使用する予定である。
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