研究課題/領域番号 |
16K19462
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
田所 友美 横浜市立大学, 医学部, 助教 (20507644)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 組織幹細胞 / 気道上皮 / 細胞増殖制御 / 幹細胞ニッチ / Bmpシグナル |
研究実績の概要 |
気道上皮幹細胞のニッチによる増殖制御メカニズムの解明のため、これに関与するシグナル伝達系をスクリーニングする3Dスフィア培養の培養期間と評価法の検討を行った。その結果、培養期間は従来の14日から9日に短縮可能であった。細胞の増殖をコロニー数、細胞数、スフィアサイズで評価した所、細胞数が最も気道上皮幹細胞の増殖を鋭敏に反映することが明らかとなった。よって、薬剤スクリーニングは培養期間9日後に細胞数を計測することにより行うこととした。 上記の方法を用いて、様々な化合物やタンパク質のスクリーニングを行った結果、Bmp/VEGF受容体の阻害剤であるLDN-193189、ERK1阻害剤SC-1、Cdk/GSK-3b阻害剤のKenpaullone等が基底細胞の細胞増殖を促進することが明らかとなった。その中でBmp/VEGF阻害剤LDN-193189が最も細胞増殖を促進した。 次に、LDN-193189のアナログ化合物のDMH1、DMH4を用いて、基底細胞の細胞増殖制御に関与するシグナル伝達系の詳細な解析を行った。DMH1はBmp受容体Alk2やAlk3に対する阻害作用はある(IC50=108 nM, 5 nM)が、VEGF受容体に対する阻害効果はない。一方、DMH4はVEGF受容体に対する阻害作用を示す(IC50=161 nM)のに対し、Alk2に対する阻害効果が非常に低い(IC50=3558 nM)。これらの化合物を用いて3Dスフィア培養を行ったところ、DMH1は細胞増殖促進効果を示したのに対し、DMH4は細胞増殖に影響を及ぼさなかった。以上のことから、基底細胞の増殖はVEGFシグナル経路ではなくBmpシグナル経路によって制御されていることが明らかとなった。また、これら阻害剤は細胞の分化に影響を与えなかった。 本年度の成果は、幹細胞の増殖を促進する薬剤開発等に役立てることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定通り3Dスフィアアッセイの最適化を行うことができた。また、3Dスフィア培養法を用いて気道上皮幹細胞である基底細胞の細胞増殖制御に関与するシグナル伝達経路のスクリーニングを行い、Bmp/VEGFシグナル経路を始めとした複数のシグナル伝達経路の関与が示唆された。さらに、各種アナログ化合物を組み合わせることによって、最も細胞増殖へ影響を及ぼすシグナル経路がBmpシグナル経路であると示すことができた。また、LDN-193189は細胞分化には影響を与えないことを明らかにした。以上のことから、当初予定通りに実験計画が順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、in vivoにおいてどのようにBmpシグナル経路による幹細胞の増殖制御が行われているかを解明していく予定である。 1)気道上皮及び間質組織中のBmpリガンド・アンタゴニストの気道傷害前後の発現量変化をqRT-PCR解析を用いて調べ、局在に関しては組織染色による解析を中心に行う。 2)Krt5-CreERT2; Rosa-mTmGマウスを1細胞レベルで標識した後に気道傷害を行い、同時にDMSO(コントロール)あるいはBmp阻害剤処理を行うことで細胞増殖に対する影響について解析を行う。 3)気道上皮修復過程においては徐々に細胞数が増加するが、2週間後には一定の細胞数に収束し修復過程が終了する。その際にBmp阻害剤がどのような作用をするのか、すなわち異常増殖の有無について検討を行う。 上記アプローチにより、in vivoの幹細胞増殖制御におけるBmpシグナル経路の働きを解明する予定である。
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