研究課題/領域番号 |
16K19471
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
赤田 憲太朗 産業医科大学, 医学部, 助教 (20644149)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 気管支喘息 / アレルギー性気道炎症 / NOS合成酵素 / NOS完全欠損マウス / PM2.5 |
研究実績の概要 |
気管支喘息(以下、喘息)患者では呼気NO濃度が増加することから、NOは好酸球性炎症を基盤とした気道過敏性亢進や気道狭窄が主とした病態である喘息において非常に重要な役割を果たしていることが考えられる。喘息の病態生理におけるNO自体の役割についての解明は未だ不明な点が多い。その理由として、これまでの研究では、NO合成酵素であるnitric oxide synthase (NOS)の3つのアイソフォーム(iNOS、nNOS、eNOS)各々のシングル欠損マウスや過剰発現における検討であり、残存した他のNOSによるNO産生の代償機序が働くため、また、非選択的NOS阻害薬は様々な非特異的作用を有するため、NO自体の喘息の病態生理に対する役割については正確な検討が出来ていなかった。この問題を解決するために、研究協力者の琉球大学薬理学教授の筒井らは、世界で初めてNOS完全欠損マウス(n/i/eNOSトリプル欠損マウス)を作製し、このマウスを用いることにより、NO自体の気道や肺における役割を検討することが可能となった。 我が国における大気汚染については、近年では粒子状大気汚染物質(PM2.5)等による大規模な越境と思われる大気汚染が断続的に西日本で広域的に発生し、環境基準を超えるPM2.5濃度が観察されるようになった。しかし、大気粉じんによる喘息の発症や増悪におけるNOやNOSの役割については十分解明されておらず、その病態の解明は重要である。そこで我々は、NOS完全欠損マウスに喘息を誘発し、PM2.5を吸入曝露することで、喘息におけるNOの役割や、PM2.5曝露による喘息増悪におけるNOやNOSの機序の解明を行うこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はこれまでに野生型(C57BL6J)とNOS完全欠損マウスを用いて喘息モデルを作成して肺の病理学的検討を行い、野生型と比較して、NOS完全欠損マウスでは気道の好酸球性炎症や気管支平滑筋肥厚の軽減、気道分泌の軽減が確認された。また、摘出した肺組織よりmRNAを抽出しRT-PCRにて炎症性サイトカインの発現を検討したところ、野生型と比較して、NOS完全欠損マウスではIL-4, IL-5, IL-13の有意な低下を認めた。これらの結果からは、NO自体が気道の好酸球性炎症や気道分泌、気道リモデリングに対して増悪させる方向に作用している可能性が示唆されており、NOは従来から考えられていた好酸球性気道炎症の結果放出されているだけでなく、喘息の病態に深く関与している可能性が考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
PM2.5等の大気粉じんの喘息誘発メカニズムには不明な点が多いが、共同研究者の迎、矢寺、城戸らは、これまでに大気粉じんが肺や気道のみならず、全身炎症を誘発することを動物を用いたPM曝露モデルでの知見として数多く報告してきた。しかし、PM2.5による全身炎症を伴った喘息において、NOやNOSの機序についても明らかになっていない。そこで、野生型とNOS完全欠損マウスで喘息モデルを作成し、PM2.5の曝露を行い、病理組織学的検討ならびにサイトカイン、ケモカインの検討を行い、PM2.5曝露による喘息増悪におけるNOやNOSの機序の解明を行う。また、NO、NOSとIgEとの関係を解明するため、野生型喘息モデルマウスとNOS完全欠損マウス喘息モデルに抗IgE抗体の投与による検討も行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究においてマウス、試料の取り寄せの遅延、ならびにマウス喘息モデルの安定した作成に時間を要したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究は、遅延傾向であったが、成果は十分にでており、また、試料を取り寄せ次第に使用額も順調に使用できる予定である。
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