研究実績の概要 |
近年,気管支肺胞洗浄液(BALF)などの下気道検体から細菌遺伝子が検出されるようになり,肺内細菌叢の多様性が難治性肺疾患における病態に影響を与えていることが示唆されている。本研究では,特発性肺線維症(IPF)患者におけるBALF中の網羅的細菌叢解析を行い,肺内細菌叢の多様性を分析するとともに,多様性が線維化に及ぼす影響や急性増悪時に増減するmiRNAについて検討した。その結果,IPF患者におけるBALF中に検出された主な菌種は,フィルミクテス門, プロテオバクテリア門,バクテロイデス門などの嫌気性菌が大多数を占めていた。一方で,肺内細菌叢の多様性について患者背景や疾患進行などの観点から複数の検討を行ったが,肺内細菌叢に影響を及ぼす背景因子は認めなかった。また,IPF安定期と比較してIPF急性増悪時に増減する血清内miRNAを網羅的に解析した結果,複数のmiRNA 発現に増減を認めた。このうちreal-time PCRで追加検証が可能であったmiR-122-5pおよびmiR-151bについて,各々miRNAをA549細胞と不死化肺胞上皮細胞に導入し,細胞内で過剰発現あるいは抑制させ,トランスクリプトーム解析を行ったところ細胞外マトリックス沈着に影響する複数の遺伝子発現調節に関与していることが示唆された。今回の研究では,元来無菌と考えられたIPF患者の下気道検体から嫌気性菌の細菌遺伝子が多く検出されたことに加え,IPF急性増悪時に特定のmiRNAの増減を認めることを示しただけでなく,これらがmiRNAが線維化に関わる遺伝子発現に影響を与えることを示した。今回の研究成果をもとに,今後も引き続きIPFに関するバイオマーカーや治療ターゲットについて研究を継続する予定である。
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