肺非結核性抗酸菌(NTM)症は未だに十分有効な抗菌薬治療がなく、複数の抗酸菌が検出された症例では正確な診断や治療に難渋することがある。また、肺NTM症の早期発見、早期治療も重要である。 産業医科大学および関連病院で肺NTM症を疑い気管支鏡検査を施行した120例を対象とした。気管支洗浄液からDNAを抽出し、抗酸菌群の16S rRNA遺伝子をPCR法で増幅し、PCR産物のclone libraryを作成し、各々の菌種を推定し、患者背景や胸部CT所見、経過などを検討した。 全120例のうち気管支洗浄液の抗酸菌培養で55例が陽性であった。培養陽性55例のうち52例 (94.5%) で抗酸菌群特異的PCRが陽性となった。52例のうち、抗酸菌群のclone library methodで単一のphylotypeが検出した群(単一群)が45例 (86.5%)で、複数のphylotypeが検出した群(複数群)が7例 (13.5%) であった。複数群では有意に治療を要した症例が多く (P=0.032) 、治療が行われても症状が改善した症例が少なく (P=0.016) 、胸部CTで陰影の増悪がみられる傾向 (P=0.048) にあった。NTM培養陰性65例中、PCR陽性が11例(16.9%)であり、そのうち6例は初回検体採取後、平均6.2±2.1ヶ月の検体で抗酸菌培養が陽性となり、PCR陰性の54例では経過観察(平均20±19.7ヶ月)中に培養が陽性となった症例はなかった。 抗酸菌群のclone library methodで複数のNTMが検出された症例は症状の改善率が低く、胸部CTが増悪する頻度が高く、予後が悪い可能性が示唆された。気管支洗浄液の抗酸菌培養が陰性でもPCRが陽性だった症例では半数以上がその後1年以内に肺NTM症と診断されており、十分注意して経過観察することが重要と考えられた。
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