研究実績の概要 |
本研究から腎臓病と腸管、腸内細菌叢の臓器連関である「腸腎連関」について以下の知見を得て成果報告を行った。1. 無菌腎不全モデルマウス(アデニン誘発性腎不全)を用いたメタボローム解析から、腎不全時の尿毒素蓄積における腸内細菌叢の関与を体系的に明らかにした。なかでも11代謝物(インドキシル硫酸、クレシル硫酸、フェニル硫酸、コール酸、馬尿酸、ジメチルグリシン、グアニジノ酪酸、グルタル酸、ヒドロキシペンタン酸、トリメチルアミン-N-オキシド、フェナセツル酸)を“腸内細菌由来尿毒素”と同定した。また腸内細菌叢は、腎不全時の短鎖脂肪酸産生およびアミノ酸代謝への関与を明らかにした。さらに腸内細菌叢が欠落する無菌環境で飼育した腎不全マウスは腎障害が悪化することから潜在的な腎保護的な役割も担っていることを明らかにした。したがって慢性腎不全の病態において腸内細菌叢は尿毒素産生という負の役割のみならず腎保護的な役割を有していることから正負両面から病態に寄与することを明らかにした(Mishima et al,Kidney int.2017)。2. 糖尿病治療薬でありSGLT2阻害能に加えて腸管上皮に発現するSGLT1の阻害能を有するカナグリフロジンは、腎不全時の腸内細菌叢を変化させることで腸内細菌叢由来の尿毒素の体内蓄積を軽減するとともに、腸管内短鎖脂肪酸の増加をもたらすことを腎不全マウスを用いた実験から明らかにした(Mishima et al. Am J Physiol Renal Physiol.2017)。このような他疾患への既存薬の腎保護効果を見出すことはドラッグリポジショニングとして腎臓病の新規治療薬へと展望が期待される。
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