本研究の研究代表者が所属する研究室ではこれまでに慢性腎臓病の進展に寄与する分子メカニズムについて主に低酸素刺激環境下でのHIF1の役割を中心に研究を進めてきた。本研究では、ヒストン修飾酵素H3K27me3の阻害薬であるDznep(3-deazaneplanocin A)を慢性腎障害モデルマウスに投与すると線維化の進行が抑制されることを見出した。In vivoおよびin vitroの細胞を用いて、高速シークエンサーにより網羅的にDznep投与および低酸素刺激により発現が変動する遺伝子群の中からTimp2(tissue inhibitor of metalloproteinase2)が腎障害によって発現が上昇し、Dznep投与により発現が抑制されることを見出した。さらに、small RNA-seqの発現解析から低酸素によって338個のmicroRNAが抑制され、142個のmicroRNAがDznep投与により発現が上昇することを突き止めた。これらのmicroRNAのうち、Timp2に結合することが可能な配列をもつmicroRNAはmiR-130およびmiR-221の2つであることをTarget scanによるデータベース解析から見出した。これらのmicroRNAsは低酸素刺激では発現が減少するが、Dznepを投与することによって発現が増加し、標的とするTimp2に結合することでTimp2の発現を抑制し、線維化を抑制する可能性が考えられた。上記の仮説を検証するため、正常酸素分圧下で尿細管細胞株HK2(human kidney-2 cell)にDznepを投与するとmiR-130およびmiR-221の発現が上昇することを確認した。また、in vivoの実験で、虚血再灌流(I/R: ischemia/reperfusion)モデルマウスでは、健常側の腎臓と比べて障害腎のほうがmiR-130およびmiR-221ともに発現が上昇していることを見出した。以上の結果から、これらのmicroRNAがDznepの標的microRNAであり、Timp2に結合することで発現を抑制する可能性が考えられた。
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