研究課題/領域番号 |
16K19479
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
福住 好恭 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (20609242)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ポドサイト / スリット膜 / Ephrin-B1 / Ephrin-B2 / ノックアウトマウス / Nephrin / 糸球体 |
研究実績の概要 |
タモキシフェン誘導型ポドサイト特異的Ephrin-B1遺伝子欠損マウスを用いて、スリット膜の形成、維持におけるEphrin-B1 の役割を解析した。具体的には、(i)母マウスにタモキシフェンを投与することにより出生前にEphrin-B1発現を欠損させたKOマウス、(ii)糸球体形成が完了した生後2週間以降にEphrin-B1発現を欠損させたマウス、2つのモデルマウスを作製し、解析を行った。 それぞれのモデルマウスから摘出した腎組織を免疫蛍光法によりNephrin、NEPH1、ZO-1、CD2AP 、podocin、Synaptopodinのポドサイト・スリット膜機能分子の発現パターンの解析を行った。その結果、両モデルマウスにおいて、Nephrin、NEPH1、CD2AP、ZO-1の局在異常が観察された。しかし、蛋白尿の有無を検討したところ、出生前にEphrin-B1発現を欠損させたマウスではコントロールマウスと比較して、有意な蛋白尿が観察されなかったが、修正後にEphrin-B1発現を欠損させたマウスでは、有意な蛋白尿が観察された。 出生前、出生後にEphrin-B1発現を欠損させたマウス糸球体のEphrin-B2発現を解析したところ、出生前に欠損させたマウスで有意なEphrin-B2発現上昇が観察された。発生期糸球体におけるEphrin-B1、B2の発現を免疫蛍光法により解析したところ、Ephrin-B1、B2ともに糸球体発生のかなり早い時期(S字管期初期)に発現が観察されたが、成熟に伴ってEphrin-B2発現が減少したのに対して、Ephrin-B1の発現は維持されていることが観察された。以上より、Ephrin-B1、Ephrin-B2は発生期初期の糸球体形成に重要であり、糸球体成熟においてはEphrin-B1が重要であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞膜蛋白質Ephrin-B1がポドサイトスリット膜の形成、維持にどのように関わっているのかを解明するため、タモキシフェン誘導型ポドサイト特異的Ephrin-B1遺伝子欠損マウスを用いて解析した。タモキシフェン投与により出生前と出生後にEphrin-B1発現欠損を誘導させることにより、スリット膜の形成と維持におけるEphrin-B1の役割を解析した。 その結果、出生前と出生後におけるEphrin-B1発現の欠損は、スリット膜機能分子の局在異常が観察され、Ephrin-B1がスリット膜の形成に重要であることが示された。また、出生後にEphrin-B1を欠損させたマウスでは、蛋白尿が観察されたことから、Ephrin-B1はスリット膜の維持においても重要であることを示した。 次に、出生前にEphrin-B1発現を欠損させたマウスにおいて、蛋白尿が観察されなかったことから、他の分子による代償作用が考えられ、その候補分子であるEphrin-B2の発現検討を行った。その結果、出生前誘導Ephrin-B1欠損マウスでは、Ephrin-B2の発現上昇が観察された。以上より、出生前にポドサイトでEphrin-B1発現を欠損するとEphrin-B2が代償して働くことが考えられた。 さらに、発生期糸球体において、Ephrin-B1、B2の発現様式を検討したところ、Ephrin-B1、B2ともにS字管期初期糸球体に発現が観察されたが、成熟に伴ってEphrin-B2発現が減少したのに対して、Ephrin-B1の発現は維持されていることが観察された。以上より、Ephrin-B1、Ephrin-B2は発生期初期の糸球体形成に重要であり、糸球体成熟においてはEphrin-B1が重要であることを示し、糸球体発生、及びスリット膜の形成、維持におけるEphrin-B1、B2の役割の違いを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
Ephrin-B1 とNephrin の結合様式の解析を行う。具体的には、HEK293 細胞にEphrin-B1-HA 融合蛋白質とNephrin-FLAG 融合蛋白質をリン酸カルシウム法により共発現させる。この時、Nephrin の細胞外あるいは細胞内の各ドメインを発現するベクターと全長の蛋白質を発現するベクターを発現させ、免疫沈降法によりNephrin とEphrin-B1 の結合部位を解析する。 また、抗Nephrin 抗体刺激によりEphrin-B1 がリン酸化されるメカニズムを解明するため、Nephrin 刺激によるEphrin-B1のリン酸化機序の解析を行う。具体的には、リン酸カルシウム法によりEphrin-B1-HA 融合蛋白質とNephrin-FLAG 融合蛋白質を共発現させたHEK293 細胞に抗Nephrin 抗体を加え、添加後1 分、5 分、10 分、30 分後に可溶化材料を回収する。Nephrin、Ephrin-B1のリン酸化状態を抗チロシンリン酸化抗体(pY20)並びに各々の特異的リン酸化抗体を用いてウエスタンブロット法により検出する。Ephrin-B1 のリン酸化機序は、Src family kinases 阻害剤であるPP2 など各種シグナル阻害剤を用いて解析する。 次に、抗Nephrin抗体刺激によるEphrin-B1のリン酸化が、どのようなシグナルを伝達するのかを検討する。具体的には、細胞生存シグナルに関与するAktシグナル、及び細胞移動に関与するJNKシグナルなどの活性化を検討する。これらのシグナルに差が見られた場合、抗Nephrin抗体刺激によるEphrin-B1のリン酸化とEphrinの受容体であるEph受容体によるEphrin-B1のリン酸化と異なる性質があるかどうかを差が見られたシグナル系を用いて比較検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究がおおむね順調に進んだため、当初の計画より遺伝子改変マウスの飼育経費を抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は遺伝子改変マウスの解析に加え、細胞培養を用いた機能解析を行うため、細胞培養に必要な試薬を物品費として使用する予定である。
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