研究課題/領域番号 |
16K19479
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
福住 好恭 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (20609242)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ポドサイト / スリット膜 / Ephrin-B1 / Nephrin / JNK / リン酸化 |
研究実績の概要 |
Ephrin-B1とNephrinの結合様式を明らかにするため、HEK293細胞にEphrin-B1-HA融合蛋白質とNephrin-FLAG融合蛋白質をリン酸カルシウム法により共発現させ、免疫沈降解析を行った。その結果、Ephrin-B1とNephrinはそれぞれの細胞外領域の基部でcis結合していることを明らかにした。 次に、抗Nephrin抗体刺激によるNephrin/Ephrin-B1のリン酸化メカニズムについて解析したところ、Nephrin抗体による刺激でNephrinだけでなくEphrin-B1もリン酸化されること、Nephrin/Ephrin-B1のリン酸化はSrc family kinase依存性であることを明らかにした。 また、抗Nephrin抗体刺激によるEphrin-B1のリン酸化がどのようなシグナルを伝達するのかを検討したところ、リン酸化Ephrin-B1はNephrinシグナルとは別経路で細胞移動に関与するJNKシグナルを活性化させることを明らかにした。一方、Ephrin-B1ノックアウトマウス糸球体では、JNKシグナルの活性化が顕著に低下していることを発見し、Ephrin-B1が糸球体でのJNKシグナルを制御していることを明らかにした。また、運動性があまり活発ではない培養ポドサイトでEphrin-B1のリン酸化を誘導すると、運動性が亢進することを明らかにした。以上の結果から、Ephrin-B1はスリット膜が感知した情報をNephrinとは別経路で細胞内にシグナルを伝達することを明らかにした。 また、ラットのネフローゼ症候群モデル、ヒトのネフローゼ症候群の症例においても、Ephrin-B1の発現低下と残存するEphrin-B1のリン酸化を発見し、Ephrin-B1の発現異常が蛋白尿発症に関与していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度では、Ephrin-B1とNephrinの結合様式を詳細に解析し、Ephrin-B1はNephrinを根元で支えるような形で結合していることを明らかにした。さらに、抗Nephrin抗体による刺激で、Nephrinと結合しているEphrin-B1がリン酸化されることを明らかにした。リン酸化されたEphrin-B1はNephrinとの結合性が低下し、スリット膜の分子構造が変化し、タンパク尿が発症することを示した。 また、リン酸化Ephrin-B1の下流シグナルの検討では、リン酸化Ephrin-B1は細胞運動を制御するJNKシグナルを活性化させるを明らかにした。また、Ephrin-B1ノックアウトマウスでは、JNKシグナルの活性化が顕著に低下することを発見し、Ephrin-B1が糸球体でのJNKシグナルを制御していることを明らかにした。さらに、リン酸化Ephrin-B1により下流のJNKシグナルが活性化されると、運動性があまり活発ではない培養ポドサイトの運動性が亢進することを発見した。以上の結果から、ポドサイトの運動性が亢進すると糸球体が不安定になり、一定の孔を持つスリット膜構造の維持が難しくなり、さらに重篤な蛋白尿を引き起こすと考えられた。本年度の研究で、ネフローゼ症候群の症例、ラットのネフローゼ症候群モデルの検討を行い、Ephrin-B1の発現が低下し、残っているEphrin-B1がリン酸化していることを明らかにした。以上の結果から、スリット膜のバリア機能維持におけるEphrin-B1の役割を解明し、蛋白尿発症の新たな分子機構が明らかになった。以上の研究成果は、米国腎臓学会誌であるJournal of the American Society of Nephrology(Impact factor 9.423)に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
Tight Junction関連分子群であるPar3/Par6/aPKC complexがポドサイトで発現し、Par3/Par6/aPKC complexがポドサイトの極性維持に重要な役割を果たしていることが報告されている。また、上皮細胞において、Ephrin-B1がPar6と結合し、Ephrin-B1/Par6複合体が細胞間接着を制御しているという報告がある。 研究代表者の研究室では、蛋白尿を呈するネフローゼ症候群モデルラットを用いた解析で、蛋白尿ピーク時にPar3/6の発現動態が変化することを発見した。また、Par3/6がNephrinと共局在することや、Par3とNephrinが相互作用することを観察している。 ポドサイトにおけるEphrin-B1とPar3/Par6との関係を明らかにするため、Ephrin-B1ノックアウトマウス糸球体におけるPar3/Par6の発現解析を免疫染色法により行う。また、Ephrin-B1とPar3/Par6の相互作用解析をHEK293細胞を用いた強制発現系、免疫沈降法を用いた解析を行う。 Ephrin-B1はPDZ binding domainを有する1回膜貫通型細胞膜蛋白質である。Ephrin-B1と関連するPDZ domainを有する蛋白質を同定するため、Ephrin-B1ノックアウトマウス単離糸球体材料を用いて次世代シーケンサ解析(RNA-seq解析)を行う。Ephrin-B1ノックアウトマウスで発現量に変化があったPDZ domain蛋白質について、リアルタイムPCR法を用いて検証する。mRNA発現量に変化があった分子について、ノックアウトマウスの可溶化材料を用いてウエスタンブロット解析、腎切片を用いて免疫蛍光染色による局在解析を行う。蛋白質発現に異常が観察された場合、HEK293細胞を用いて相互作用解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究がおおむね順調に進んだため、当初の計画より遺伝子改変マウスの飼育経費を抑えることができた。
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