研究課題
申請者は、慢性腎臓病における腎障害のメディエーターとして炎症・酸化ストレス亢進に注目し、抗酸化酵素セルロプラスミン(Cp)に着目した。まず糸球体腎炎モデル動物におけるCpの発現を解析した。既に、老齢モデルラットでのボウマン嚢上皮細胞の発現が示唆されており(JASN 2006)、マウスモデルを検討した。マウスにnephrotoxic serum(sheep)を静脈投与のうえ抗糸球体基底膜腎炎モデルを作成し、7日目に屠殺し腎組織切片を作成し、Cpの発現について免疫組織学的に同定を試みた。結果、抗原賦活処理(クエン酸 pH7.0)のうえrabbit抗human Cpポリクローナル抗体(ab48614)用いて、対照群マウスでは上述のモデルラットと同様にボウマン嚢上皮細胞に特異的な染色を認めた。抗糸球体基底膜腎炎モデルではびまん性に染色が減弱・消失し、腎炎の発症進展と逆相関することが示唆された。続いて、ヒト腎病理組織において検討する前に、事前に正常ヒト腎組織における染色性を検討した。抗Cp抗体の陽性対照として、正常ヒト肝組織を染色した。抗ヒトCp抗体は、上述のab48614とmouse抗Cpモノクローナル抗体(E-9)を用いて染色プロトコールを検討した。先述の抗原賦活処理によって確かに正常ヒト肝組織では、肝細胞並びに類洞にびまん性に染色性を認め、正常のCpの発現・局在と矛盾しない所見を得た。一方で同時に染色した腎組織では、特異的な染色を糸球体に認められなかった。正常腎組織の染色性から、げっ歯類とヒトでは腎局所におけるCp発現に大きな差異があることが示唆された。引き続きヒト腎臓病・糸球体腎炎におけるCpの関与を広く検討するため、(1)腎生検例において保存血清中のCpと腎予後の関連、また(2)安定した維持血液透析例におけるCp値と腎性貧血の関連を検討するため、追加で研究計画を立てている。
2: おおむね順調に進展している
申請者は、慢性腎臓病とCpの関連の検討として腎病理組織学的にアプローチした。既報で老齢モデルラットと申請者の腎炎モデルマウスとともに発現部位が一致した一方、ヒト正常腎組織においては免疫染色プロトコールの検討にも関わらず、特異的な染色性は認めなかった。この結果は、The Human Protein Atlasにおける検討と一致している。さらに申請者は最終的にCpとヒト糸球体腎炎の関連、進展機序の解明を目的にしておるため、これまでの結果は腎特異的発現の検討方針に結論をつけられた。申請者は引き続き、保存血清中のCpと腎疾患ごとの腎予後の関連を検討している。すでに、CKDにおける血清Cp高値と将来の心血管イベント発生との関連が示唆されている(CJASN 2014)。またいずれの腎疾患においても進展とともに腎性貧血を生じ、さらに慢性炎症との関連は確固となっている。腎性貧血の治療は保存期CKDの進行に関連し得る。申請者の上述の追加の研究計画からは、Cpと慢性腎臓病の発展進行との関連に一定の結果が得られることが期待される。
計画(1)には、広く腎疾患をカバーし適切な腎病理診断が施行され、かつ十分な保存臨床検体を有する腎生検コホートが必要である。申請者の所属講座は年間約400例、合計16,000例という国内随一の豊富な腎生検データと臨床材料を有し、新規分子の臨床応用に向けた検討検証を行う点で極めて有利である。計画(2)には、多数の血液透析患者を施行している維持血液透析施設を対象とする必要がある。腎性貧血が検討された既報(CHOIR研究)では対象600名中、5~20%がエリスロポエチン低反応性を示した。すでに、本研究計画の進行は多数の患者を抱える維持透析施設とともに進めている。
おおむね所要額を支出している。
次年度使用額はごく少額であり、当初の予算の範疇で研究計画を遂行する。物品費として、臨床検体を測定するELISAキットの購入消耗品に充てる。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Clin Exp Nephrol
巻: 20 ページ: 827-831
10.1007/s10157-016-1334-0