研究課題/領域番号 |
16K19483
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
張 エイ 新潟大学, 医歯学系, 助教 (00529472)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ネフローゼ症候群 / 蛋白尿発症 / 次世代シーケンサー / RNA-seq解析 |
研究実績の概要 |
昨年度は、蛋白尿発症に関わる新規分子を同定するために、スリット膜特異的障害モデル(抗Nephrin抗体誘導腎症)と微小変化型ネフローゼ症候群モデル(PAN腎症)ラットの単離糸球体材料を用い、次世代シーケンサーRNA-seq解析により、発現が顕著に変動した分子を同定した。 今年度は、これら同定した分子から、スリット膜障害と蛋白尿発症に関与する可能性のある分子についての選定を行い、糸球体濾過バリアの構造と機能維持のための役割を検討した。具体的には、Hmgcs2(ケトン体の合成と分解などの代謝経路に関与する移転酵素) 、Slc5a8(溶質イオン輸送体である膜貫通タンパク質) 、Vnn1(酸化ストレス誘発性アポトーシスを負的に調節する加水分解酵素)、Pdk4(ピルビン酸脱水素酵素)、Lnpep(アンギオテンシン活性化シグナル伝達経路に関与するアミノペプチダーゼ)、Ptar1(プレニル基転移酵素)を蛋白尿発症に関与する候補分子として選定した。RT-PCR法により、これらの分子は培養ポドサイトに発現していることを明らかにした。更に、蛋白尿発症におけるこれらの分子の糸球体での発現の動態変化をネフローゼ症候群モデルを用いて、リアルタイムPCR法により検討したところ、蛋白尿出現前の病態誘導初期では、すべての分子の発現は正常と比較して顕著に低下していることが分かった。蛋白尿の進展期とピーク時では、Hmgcs2とLnpepのmRNA発現低下が維持されていたのに対して、Slc5a8とVnn1、Pdk4の発現が回復する傾向を示した。以上の所見により、これらの分子の発現低下、機能低下が蛋白尿発症に関与していることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.スリット膜特異的障害モデル(抗Nephrin抗体誘導腎症)の蛋白尿出現前の病態誘導初期と蛋白尿のピーク時、それぞれにおける発現が顕著に変動した分子群を次世代シーケンサーのRNA-Seq解析法により同定し、リストアップした。 2.次世代シーケンサーのRNA-Seq解析法により、抗Nephrin抗体誘導腎症モデルの病態誘導直後に最も顕著に発現低下分子、Hmgcs2 、Slc5a8 、Vnn1、Pdk4、Lnpep、Ptar1を蛋白尿発症に関与する新規分子の候補分子として選定した。 まず、次世代シーケンサ解析により同定されたこれら6つの分子が、正常糸球体とポドサイトに発現しているかどうかをRT-PCR法により検討したところ、正常糸球体に明確に発現していること、未分化型培養ポドサイトに比べ分化型培養ポドサイトに多く発現していることを明らかにした。 次に、蛋白尿発症におけるこれらの分子の糸球体での発現の動態変化をネフローゼ症候群モデル(抗Nephrin抗体誘導腎症)を用いてリアルタイムPCR法により検討したところ、蛋白尿出現前の病態誘導初期(腎症誘導直後1時間)では、6分子の発現は正常より顕著に低下していることが分かった。蛋白尿の進展期(腎症誘導24時間)とピーク時(腎症誘導5日目)では、Hmgcs2とLnpepのmRNA発現が低下したままだったのに対して、Slc5a8とVnn1、Pdk4の発現量が回復する傾向を示した。以上の所見により、これらの分子の発現低下が、蛋白尿発症に関与していることを示した。 蛋白尿発症に関与する候補分子について、以上の研究を行った。進捗状況により、おおむね順調に進展していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの微小変化型ネフローゼ症候群モデル(PAN腎症)ラットの糸球体材料を用いた解析で同定された発現変動分子群から、一過性受容体電位チャネルSuperfamily(TRPチャネル)に属する、カルシウム活性化型カチオンチャネルであるTRPM4が同定された。TRPチャネルの代表分子であるTRPC6は、スリット膜の関連分子として糸球体濾過バリアの機能維持に重要な役割を果たすことが既に報告されている。しかし、糸球体におけるTRPM4の機能はまだ十分に解明されていない。平成30年度では、TRPM4に蛋白尿発症に関与する候補分子として着目し、糸球体濾過バリアの構造と機能維持のための役割を検討する。 1.生理的な状態で腎臓内の局在と発現を検討する。正常ラットの腎材料を用い、TRPM4の糸球体における局在と発現を免疫蛍光染色、Western blot法により検討する。さらに、培養ポドサイトを用い、TRPM4の発現と局在を検討する。 2.蛋白尿発症におけるTRPM4の糸球体での局在と発現の動態変化を検討する。ネフローゼ症候群モデルラットを用い、TRPM4の糸球体での分布パターンと発現量の変動を免疫蛍光染色、Western blot、Real-time PCR法により検討する。 3.TRPM4の蛋白尿発症における役割を検討する。TRPM4は様々な細胞内Ca2+ シグナル伝達経路に関与している。TRPM4の発現を抑制するsiRNAの作用、またはTRPM4チャネル機能の阻害薬の作用を培養細胞系或いは実験動物モデルで検討することによって、TRPM4の糸球体濾過バリアの構造と機能維持に関わる役割を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画より、2017年度にタンパク質発現解析試薬、抗体、プライマー、遺伝子とタンパク質マーカーなどを購入するため、研究費を使用したが、次世代シーケンサを用いたRNA-seq解析から発現変動分子のmRNA発現データを得たので、RNA-seq解析のための遺伝子発現解析試薬の購入費の一部を節約することができた。この部分の研究費は、2018年度に行う動物実験と培養細胞系実験用試薬の購入費の一部として使用する予定である。
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備考 |
新潟大学腎研究センター腎分子病態学分野
http://www.med.niigata-u.ac.jp/nim/welcomej.html
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