初年度は、蛋白尿発症に関する新規分子を同定するために、スリット膜特異的障害モデル(抗Nephrin抗体誘導腎症)と微小変化型ネフローゼ症候群モデル(PAN腎症)ラットの単離糸球体材料を用い、次世代シーケンサーRNA-seq解析により、発現が顕著に変動した分子群を同定した。昨年度は、これら同定した分子から、スリット膜障害と蛋白尿発症に関与する可能性のある分子を選定し、そのうち、Hmgcs2、Slc5a8、Vnn1、Pdk4、Lnpep、Ptar1分子の発現低下、機能低下が蛋白尿発症に関与していることを示した。 今年度は、これまでのPAN腎症ラットの糸球体材料を用いた解析で同定された発現変動分子群から、カルシウムイオン活性化型陽イオンチャネルTRPM4を蛋白尿発症に関与する候補分子として同定し、その性状の検討を行った。成熟糸球体において、TRPM4がポドサイトに限局的に発現し、ポドサイト足突起のスリット膜のやや頂部側の細胞膜表面に局在することを明らかにした。発生期糸球体において、TRPM4はスリット膜の主要構成分子であるNephrinがまだ発現していないS字管期初期ではポドサイト前駆細胞に発現し、S字管期後期と毛細血管形成期ではNephrinと共局在することを示した。微小変化型ネフローゼ症候群モデルにおける蛋白尿ピーク時では、正常に比較し、TRPM4の染色パターンと染色性、チャネル活性を持つTRPM4バリアントのmRNA発現が明確に変化していることを示した。以上の所見により、ポドサイト障害時にTRPM4の発現と局在の変化が蛋白尿の発症に関与することを示した。蛋白尿は、腎糸球体障害を示す臨床所見であるだけでなく、蛋白尿自体が尿細管障害を誘導し、腎不全へと進行させる悪化因子であると考えられている。本研究から得られた知見は、ネフローゼ症候群に対する新規治療法の開発に貢献すると考える。
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