研究実績の概要 |
生命の維持に必須の器官である腎臓は一度機能を失うとほぼ再生しない。発生期にはネフロンを造り上げる転写因子SIX2陽性のネフロン前駆細胞が存在している。しかしそれらはネフロンを構成する細胞に分化し、出生前後には消失してしまう。このことが腎臓が再生できない理由の一つとされている。当研究室によってヒトiPS細胞からネフロン前駆細胞の誘導が可能になり、そこから3次元のネフロン組織を再構築できるようになった (Taguchi et al., Cell Stem Cell, 2014, 2017)。これにより再生医療への応用や創薬、病態メカニズムの解明が期待されるが、そのためには大量の細胞数の確保と、誘導した細胞を一定期間維持できる培養系が必要である。我々は低濃度のLIFにWNT, FGF及び BMPを敢えて低い濃度で組み合わせることによって、マウスの胎仔から単離したSix2陽性のネフロン前駆細胞を試験管内で90%以上の純度および分化能を維持した状態で増幅することに成功している が(Tanigawa et al., Cell Rep, 2016)、ヒトiPS細胞由来のネフロン前駆細胞ではまだ確立できていない。そこで本研究では、TALENを用いた相同組み換えによってSIX2の遺伝子座にGFPをノックインしたヒトiPS細胞を作成し、ネフロン前駆細胞に誘導した組織からSIX2-GFP陽性の細胞をFACSで単離し高率に増幅する培養条件を検討した。その結果、ネフロンへの分化能を維持しながらSIX2陽性のヒトネフロン前駆細胞を高純度で増幅できるようになった。さらに、増幅したネフロン前駆細胞は凍結保存後もネフロン形成能を維持していることから、iPS細胞からネフロン前駆細胞へ誘導する時間を大幅に短縮した研究材料として提供が可能になり、腎臓再生医療の基盤となることが期待できる。
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