研究実績の概要 |
申請者は、筋細胞中に含有されるヘムが過剰に血中に流入する疾患、横紋筋融解症において、ヘムにより刺激された白血球がマクロファージ上の表面分子Mac-1を介し細胞外クロマチン繊維を放出し腎毒性に寄与するという仮説を検証した。横紋筋融解症惹起性急性腎障害(acute kidney injury, AKI)がMac-1依存性であることを、Mac-1欠損マウスを用いた実験系により見出した。その病態責任細胞はMac-1発現することで知られる好中球ではなく、マクロファージであることを細胞除去実験により特定した。さらに、マクロファージ由来クロマチンが本病態の契機となる重要な要因であり、腎障害機構が白血球細胞外トラップ(Leukocyte extracellular traps, ETs)依存性であることを発見した。横紋筋融解症惹起性AKIがETsに依存することを示すため、ETs抑制剤(DNase1, Cl-amidine)を用いAKIが抑制されること、ETsの生体内マーカーである血漿DNA濃度も抑制されることを示した。さらに、横紋筋融解症惹起性AKIにETsが関係していることをより直接的に示すために、横紋筋融解症惹起性AKIモデルマウスの腎組織中にETsを共焦点顕微鏡を用いて肉眼的にETsの存在を確認した。AKIをきたす別の動物モデルであるシスプラチン惹起性腎障害においてはETs依存性であるという結果は得られなかったことから、ETs産生による腎障害は横紋筋融解症惹起性AKIに特異的な現象であることが示唆された。横紋筋融解症惹起性AKIの新たな病態メカニズムとしてETsの関与が存在することを見出したこの一連の研究成果により、本疾患の新規創薬対象としてETs/AKI経路の抑制が挙げられ、将来の治療薬の開発に重要な意義を持つと考えられる。
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