研究課題
多発性硬化症(MS)や視神経脊髄炎スペクトラム病(NMOSD)をはじめとした炎症性中枢神経疾患は、中枢神経内で何らかの炎症が生じ様々な神経症状を来す疾患の総称である。これらの疾患の多くは原因不明で決定的な疾患特異的マーカーが少なく、臨床上診断や予後予測に苦慮する。NMOSDでは近年仮足運動障害によるアストロサイト機能障害が明らかとなった。本研究の目的は、炎症性中枢神経疾患の病態に基づき脳脊髄液中の仮足関連蛋白と細胞破壊関連蛋白を測定、診断や予後予測因子となるかを検討した上で、包括的診断プロトコルを作成することである。当院の協力病院・施設に協力を依頼し、MS、NMOSD、急性散在性脳脊髄炎、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、神経スイート病、腫瘍様脱髄疾患、Balo病といった稀な炎症性中枢神経疾患の脳脊髄液検体の収拾を行った。これら検体を用い、LDHやアストロサイト足突起の仮足に存在すると思われるCRMP5やArp2/3 complexの測定を行った。LDHは抗AQP4抗体陽性視神経脊髄炎患者の発症急性期脳脊髄液において上昇しているが、血中LDHの影響を受けやすいことが明らかになった。LDHは血中濃度が簡便に測定できるマーカーの1つでありスクリーニングとしては有用であるが、急性胆嚢炎を始め血中LDHが上昇する病態においても髄液LDHが高値となり、疑陽性が一定数存在することも明らかになった。脳脊髄液中CRMP5とArp2/3 complexは抗AQP4抗体陽性視神経脊髄炎患者にほぼ特異的に上昇し、アストロサイト足突起破壊を反映していると考えられた。一方、視神経炎での再発においては上昇せず、視神経周囲の炎症を脳脊髄液は反映しない可能性が示唆された。これらの研究結果をまとめ、現在投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
脳脊髄液中バイオマーカー測定はおおむね順調に進展し、論文投稿に向けて準備を進めている。脳脊髄液中髄鞘再生蛋白も準備が整い次第順次測定する予定であり、本年度中には結果をまとめ報告できるレベルに達する予定である。
本研究開始時にはまだクローズアップされていなかった抗MOG抗体陽性神経疾患がこの数年でこの分野における重要な位置を占めてきており、脳脊髄液中の診断・予後予測因子のバイオマーカーに関する研究報告は未だない。こちらについても今年度中に検体収集および検討を進める予定である。検体収集については我々の研究グループで収集している脳脊髄液検体を供与頂く予定である。
購入したマーカー測定キットが比較的安価に購入することが出来たため。今後新たに測定するマーカーのためキットを購入する予定である。
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