パーキンソン病(PD)の仮面様顔貌は,これまで運動障害の一つと考えられ,近年注目されている非運動症状との関連については殆ど検討されていない.そこで我々はPDと健常者の表情変化を定量解析し,各種運動・認知機能検査と比較することにより,仮面様顔貌が単純な運動障害ではなく,認知機能低下を背景とした非運動症状の側面を有する可能性について検討した.MMSE 24点以上で認知症のないPD 38例と同年代の健常者(HC)24例を対象に,各被験者にInternational Affective Picture Systemより選出した快・不快画像をランダムに視覚提示し内容を供述させ,その際の表情の変化を表情解析ソフトにより定量分析した.得られた表情変動スコア(FFS)と,各々のMDS-UPDRS,注意・遂行機能,言語,記憶,視空間認知機能など各認知ドメインに関する神経心理検査,うつ評価尺度・やる気スコア等の結果を統計比較し,それぞれの関連性について検討した.さらに3テスラMRIによる安静時fMRI解析を行い,仮面様顔貌に関連する神経基盤の検討を行った.検討の結果,PD群,HC群の平均年齢(SD)は,それぞれ69.9歳(7.1),70.2歳(7.4)と有意差は認めなかった.一方FFSはPD群で2.1(1.0),HC群で3.1(0.8)と有意差を認め(p<0.001),PD群で表情変動が減少していた.重回帰分析の結果,表情変動の減少は運動スコアはとは関連せず,注意・遂行機能ドメインを中心とした神経心理検査や抑うつの尺度との関連を認めた.安静時fMRI解析の結果,仮面様顔貌と関連し,辺縁系や前頭葉を中心とした機能的結合性の異常を認めた.以上の結果より,PDの仮面様顔貌は,一般的な運動障害とは必ずしも相関せず,認知機能や情動障害と関連したより高次の症候である可能性が示唆された.
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