研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の画像診断は近年急速に進捗しているが、病初期においては特徴的な神経学的徴候を欠く場合が多く、病態や進行も多様であるため、早期診断に対する画像診断・解析技術は未だ十分確立していない。現時点でALSの有効な治療法は確立されていないが、近年の病態機序の解明に伴い、遺伝子治療や疾患修飾薬による早期治療介入が現実のものになりつつあり、簡便性・汎用性・定量性を有する高精度早期診断バイオマーカーの確立が急務である。そこで我々は、独自に開発した次世代MRI解析法(拡散尖度イメージング[diffusion kurtosis imaging, DKI]、定量的磁化率マッピング[quantitative susceptibility mapping ,QSM])を用いて、筋萎縮性側索硬化症における脳微細変化を検討し、その障害を最も鋭敏に検出可能な指標を明らかにすることで、高精度早期診断技術の確立を目指している。 初年度は、岩手医科大学附属病院神経内科に通院・入院し、Awajiの診断基準を満たすALS患者15名と健常者ボランティア14名の撮像を実施した。独自に開発したソフトウェアを用いて、DKIより種々の拡散指標マップ(mean kurtosis [MK], fractional anisotropy [FA], mean diffusivity [MD])とQSMより磁化率指標マップ(magnetic susceptibility [MS])を算出し、早期に器質的変化をきたす錐体路と運動野を対象に、Johns Hopkins大学の公開アトラスを用いて自動計測による定量化解析を行った。ALS患者における皮質脊髄路のMK値・FA値の減少とMD値の上昇、運動野後部のMS値の上昇を捉えることができ、これは軸索変性・脱髄や鉄沈着などの病理学的変化を反映していると考えられた。また、感度はMK、特異度はMD,MSが高値を示した。したがって、DKI・QSMの複数の指標を総合的に評価することで、ALS患者の画像診断精度が向上する可能性が示唆された。
|