研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の画像診断は、病初期においては特徴的な神経学的徴候を欠く場合が多く、病態や進行も多様であるため、早期診断に対する画像診断・解析技術は未だ十分確立していない。そこで我々は、独自に開発した次世代MRI解析法である拡散尖度イメージング(DKI)と定量的磁化率マッピング(QSM)を用いて、ALSにおける脳微細変化を検討し、その障害を最も鋭敏に検出可能な指標を明らかにすることで、高精度早期診断技術の確立を目指している。これまでに本学附属病院神経内科に通院・入院したALS患者35名と健常者ボランティア22名の撮像を実施した。独自に開発したソフトウェアを用いて、DKI/DTIより拡散指標マップ(MK, FA, MD)とQSMより磁化率指標マップ(MS)を算出し、早期に器質的変化をきたす錐体路と一次運動野を対象に、JHU大学の公開アトラスを用いて自動計測による定量解析を行った。健常者群に比し、ALS群の錐体路のMK値は有意に低下し、MD値は有意に上昇したが、FA値には有意差は認めなかった。一方、一次運動野のMS値は有意に上昇した。ROC解析による診断能について、単独指標による感度・特異度は、MK(DKI)が96%/75%、FA(DTI)が54%/88%、MD(DTI)が50%/94%、MS(QSM)が83%/81%であった。一方、DKI/DTIとQSMの両指標の組み合わせでは、MK/MSが83%/88%、FA/MSが88%/81%、MD・MSが83%/88%であり、いずれの指標でも80%以上と高く、優れた鑑別能を有している可能性が示唆された。DKI/DTIおよびQSMの定量的自動解析によって、ALS患者における錐体路と運動野に有意な変化を検出することができた。特に、両者の組合せは高い感度・特異度でALSを鑑別することができ、画像診断指標の一つとして有望である。
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