パーキンソン病の優性遺伝形式原因遺伝子CHCHD2は、ミトコンドリア内腔に局在する機能未知のタンパク質をコードしている。申請者らは、哺乳類培養細胞でのCHCHD2欠損により酸素消費量、呼吸鎖複合体活性低下が生じることを明らかにし、電子伝達系における役割が強く示唆された。さらにCHCHD2が、アポトーシス阻害分子と結合し細胞死を抑制すること、CHCHD2の発現量低下により各種ストレスに脆弱になり、細胞死が誘導されることを見出した。また、CHCHD2変異ハエモデルを用いて、PDと関連した表現型を忠実に再現できることを確認した。 最近、CHCHD2変異患者の病理から新たな知見が得られ、この知見に基づき一部計画を変更し、研究期間を1年延長し解析を進めた。CHCHD2変異PD患者剖検脳から、顕著なレビー小体の蓄積が認められた。これらの病理学的な結果は、CHCHD2がその変異により、異常なたんぱく質蓄積の原因となることを示唆している。そこで、CHCHD2変異体を導入したハエモデルを用いてα-シヌクリンの加齢依存的な凝集や神経脱落等を確認した。一方、哺乳類細胞においてCHCHD2とCHCHD10の結合が示された。また、CHCHD2がホモダイマーを形成すること、病因変異体では、ホモダイマーの形成効率が低下していることを明らかにしている。こうした知見と先行論文から、ミトコンドリア膜電位低下よりCHCHD2とCHCHD10のヘテロダイマー形成、CHCHD2のホモダイマー形成が、ミトコンドリア機能維持に重要な役割を持つと考えられる。CHCHD2病因変異では、タンパク質構造が変化しホモ・ヘテロダイマー形成に異常が生じることででミトコンドリア機能に異常が生じ、パーキンソン病の発症につながると推察できる。
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