多発性硬化症(MS)と腸内細菌との関連は近年頻繁に言われてきているが、免疫学的機序は明らかではない。そこで、腸管由来T細胞が発現するホーミングレセプターCCR9陽性のCD4+メモリーT細胞(CCR9+Tm)の解析をヒト検体を用いて行った。 末梢血CCR9+Tm 頻度(%CCR9)を、健常人、高齢健常人、再発完解型MS(RRMS)や二次進行型MS(SPMS)、視神経脊髄炎(NMO)において調べた。健常人では%CCR9は5%程度であるのに対し、SPMSではHSと比較して減少していることが分かった。また、%CCR9は年齢が上昇するにつれて頻度が低下することが分かった。腸内細菌異常が知られるパーキンソン病(PD)、PD以外の神経変性疾患(non-PD)を解析すると、PDでは%CCR9が上昇していたが、non-PDでは高齢健常人と変化が無かった。CCR9+Tmは、中枢神経へのホーミングレセプターCCR6を高発現していた。RR-MS/NMO患者再発時の末梢血・髄液を解析すると、CCR9+Tmは、髄液に浸潤すると免疫制御分子LAG-3を高発現することが分かった。CCR9+Tmは、C-MAFを高発現し、健常人においてはIL-4やIL-10を高産生する炎症制御性フェノタイプと考えられたが、SPMSではCCR9+TmのRORgtの発現やIL-17産生が高まっており、炎症性T細胞へフェノタイプが変化していることが分かった。腸内細菌の%CCR9への影響を調べるためマウスを用いた。無菌マウスの%CCR9は、SPFマウスより減少していた。反対に、通常飼育マウスに抗生剤投与後、%CCR9は増加した。 以上の結果より、加齢と腸内細菌の変化によりCCR9+Tmの頻度、機能が変化することがSPMSの病態に関わっている可能性がある。CCR9+Tmは、SPMSの診断マーカーや治療標的に成り得ると考えられた。
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