13C-glucose 呼気試験(13C-GBT)は、炭素の安定同位体である13Cで標識されたグルコース(13C-glucose)を経口投与し、呼気に排出されたCO2の同位体比を測定する試験で、測定結果は全身における13C-glucose酸化の総和を反映する。13C-GBTはヒトの研究においてもインスリン感受性を簡便に評価する手段としてすでに活用されている。しかし、個体を形成する個々の臓器のインスリン作用低下が、呼気13CO2排出にどの程度の影響を及ぼすのかについて検討した基礎的な研究はこれまで行なわれておらず、ヒトにおける13C-GBT結果の意義付けの観点から詳細な解析が望まれていた。空腹のZDF fatty ratに13C-GBTを行ったところ、肝13C-glucoseクリアランスが低下していた一方で呼気13CO2排出は増加しており、肝でインスリン作用が低下すると全身におけるグルコース酸化は増加することが示唆された。そこで、この仮説を直接的に検証すべく肝臓で後天的にインスリン受容体をノックアウトしたiLIRKOマウスで13C-GBT(空腹時)を行なったところ、呼気13CO2排出の増加が見られた。次に、iLIRKOマウスで認められた呼気13CO2排出増加の責任臓器が骨格筋である可能性を考え、肝臓と骨格筋の両方で同時にインスリン受容体をノックアウトしたiLMIRKOマウスを作成した。予想外に、iLMIRKOマウスでも呼気13CO2排出増加は全く減弱せず、むしろ相加的に増加していた。以上より、肝臓/骨格筋いずれにおいてもインスリン作用の低下は、個体レベルでのグルコース酸化を増加させることが示唆された。これらの結果は、肝臓、骨格筋以外に多量のグルコースを酸化しCO2を産生する組織が存在することを示唆するものと考えられた。
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