研究課題
肥満に伴う好中球の動態変化を解析するため、β3アドレナリン受容体作動薬(CL316,243)を用いて脂肪細胞からの遊離脂肪酸産生を増加させたところ、内臓脂肪組織(Visceral Adipose Tissue: VAT)に顕著な好中球の浸潤と炎症反応が誘導された。さらに、浸潤した好中球は大量のIL-1βを産生し、インスリンシグナルを阻害することもわかった。そこで平成29年度は、好中球のpro-IL-1βの発現誘導機構と遊走因子を明らかにすることを目的とした。高脂肪食摂餌により普通食摂餌マウスよりもVAT好中球のpro-IL-1βの発現が増加することを見出した。一方、骨髄や末梢血、脾臓由来の好中球ではこのような発現の増加は認められなかった。さらに、骨髄由来の好中球と脂肪細胞株の接触性の共培養により、pro-IL-1βの発現が顕著に増加したことから、VAT好中球は脂肪細胞との接触性相互作用により、pro-IL-1βを高発現することが示唆された。そのpro-IL-1βの発現増加はNF-κB活性化阻害剤により抑制され、さらにVAT好中球はNF-κB p65の核内移行が骨髄由来の好中球よりも亢進していることから、VAT好中球は脂肪細胞との接触性相互作用によりNF-κB経路を介して、pro-IL-1βを高発現することが示唆された。また、CL316,243投与により血中のロイコトリエンB4(LTB4)が増加し、VATの器官培養により培養液中のLTB4濃度が増加することから、LTB4はVATから産生されることが示唆された。LTB4の生合成酵素の1つである5リポキシゲナーゼの遺伝子欠損マウスでは、CL316,243投与による好中球のVAT浸潤が抑制された。以上から、遊離脂肪酸の増加に伴いVATからLTB4が産生されから、好中球がVATに浸潤することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
VATにおいて好中球のpro-IL-1βの発現が高く、高脂肪食摂餌によりさらに発現が増加することを明らかにした。また、好中球のpro-IL-1βの発現増加に、脂肪細胞との接触性相互作用によるNF-κB経路の活性が重要であることを見出し、VAT好中球のpro-IL-1βの発現誘導機構の一部を明らかにすることができた。さらに、遊離脂肪酸増加による好中球のVAT浸潤にLTB4が関与することを見出し、好中球のVAT浸潤機構の一部も明らかにした。
1.脂肪細胞との相互作用による好中球の活性化機序の解明脂肪細胞と好中球の接触性の相互作用に関与する分子を明らかにするため、様々な接着因子の阻害抗体を添加し好中球のpro-IL-1βの発現増加が抑制されるのか調べる。2.遊離脂肪酸によるVAT好中球のIL-1β産生機構の解明遊離脂肪酸による好中球のIL-1β産生に、インフラマソームの活性化が必須であるのかを明らかにする。NLRP3インフラマソームの構成成分であるNLRP3, ASC, Caspase-1のそれぞれの遺伝子欠損マウス、または野生型マウスにCL316,243を投与し、VATを器官培養する。培養上清中のIL-1β産生量をELISA法で測定し、インフラマソーム依存性を明らかにする。3.好中球によるマクロファージのVAT浸潤促進機構の解明平成28年度のDNAマイクロアレイ解析により、脂肪細胞と好中球の相互作用によって増加するマクロファージ遊走因子をいくつか同定している。平成30年度は、高脂肪食摂餌による好中球のVAT浸潤によって、上記のマクロファージ遊走因子の発現が増加するのか明らかにし、 好中球がマクロファージのVAT浸潤に関与するのか調べる。
(理由)好中球のpro-IL-1βの発現増加に、3T3-L1脂肪細胞との接触性相互作用が重要であることを明らかにした。従って、好中球の活性化に関与する3T3-L1脂肪細胞由来の液性因子を同定する必要がなくなり、次年度使用額が生じた。(使用計画)好中球と3T3-L1脂肪細胞との接触性相互作用に関与する分子を同定するため、抗体等の購入費として使用する。
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Journal of Biological Chemistry
巻: 292 ページ: 15378~15394
10.1074/jbc.M117.791780
http://www.med.u-toyama.ac.jp/immbio/index.html