研究課題/領域番号 |
16K19536
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
奥野 陽亮 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (10534513)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 酸化ストレス / 脂肪組織 / インスリン抵抗性 |
研究実績の概要 |
Adiponectin-CreマウスとGclc floxマウスの交配を継続し、脂肪細胞特異的グルタチオン欠損マウスを作出した。本マウスの白色脂肪組織において、ゲノムレベル、遺伝子発現レベルでGclc遺伝子の欠損を確認した。また、脂肪組織のグルタチオン量も優位に低下し、8-isoprostane量は増加していた。本マウスに高脂肪高ショ糖食を負荷し、解析を行った。本マウスは、当初還元ストレス除去モデルマウスと考え作成を行っていたが、その表現型はこれまでに認められた脂肪組織酸化ストレス除去マウスと対照的であった。即ち、白色脂肪組織の萎縮、脂肪肝の増悪、褐色脂肪組織への脂肪沈着、インスリン抵抗性の増悪、白色脂肪組織における脂質合成遺伝子発現低下、炎症細胞の浸潤等を呈した。これらの事から、本マウスは、酸化ストレス増加マウスと位置付けることが適切と考えられ、酸化ストレス除去マウスの表現型と合わせ、脂肪組織酸化ストレスがhealthy adipose expansionを抑制する事により、異所性脂肪を沈着させ、インスリン抵抗性を惹起するという仮説を強力に裏付けるものであった。 酸化ストレスによる脂質合成の抑制機構を明らかにする為、3T3-L1脂肪細胞を用いて実験を行った。ルシフェラーゼアッセイにより、酸化ストレスは、Srebp1遺伝子の転写活性を抑制する事を見出した。また、この抑制作用は、酸化ストレスによるヒストン脱メチル化酵素Kdm1aの蛋白量抑制が担っている事を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪細胞特異的グルタチオン除去マウスは、脂肪組織における還元ストレスの病態的意義を解析するために作出されたが、その表現型は、これまでに観察された酸化ストレス除去モデルと対照的であり、脂肪細胞特異的酸化ストレス増強マウスと位置付けることが出来た。当初の予定とは異なるが、これにより脂肪組織酸化ストレスのin vivoにおける役割をより詳細に知ることが出来た。特に、酸化ストレス除去マウスでははっきりしなかった、脂肪組織炎症に対する酸化ストレスの作用が認められた事は、知見として新しかった。 細胞レベルにおいても、酸化ストレスの脂質合成抑制作用が、Srebp1の活性抑制及びKdm1aの蛋白量抑制を介していることが明らかになり、メカニズムに関しても進展があったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
酸化ストレスがどのようにKdm1aの蛋白量を抑制するのかを明らかにする事が今後の課題として考えられる。Kdm1aの蛋白量は、ユビキチン系によって制御されている事が知られており、脂肪細胞において、酸化ストレスがユビキチン系に与える影響を細胞レベルで調べることが必要と考えられる。 また、脂肪組織特異的酸化ストレス除去マウスにおいて、皮下脂肪組織と腸間膜脂肪組織の表現型が異なる理由にも着目する。腸間膜脂肪組織ではCatalase、Sod1過剰発現により酸化ストレスが除去されておらず、異なる部位の脂肪組織において酸化ストレスの役割が異なる可能性が考えられる。
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