研究課題
in silico化合物検索および表現型スクリーニングによって同定した化合物Xは膵β細胞においてグルコース濃度依存的なインスリン分泌増強効果を有することが明らかとなった。本研究では化合物Xを利用したプロテオミクス手法により、新規インスリン分泌増強メカニズム解明を目的としている。平成28年度は主に化合物Xよりもより高活性化合物の同定を目的に構造活性相関情報を取得し、化合物Xのエチルエステル体(化合物X-COOEt)を同定した。平成29年度は化合物X-COOEtを利用し、ケミカルプロテオミクスに必要である化学ブローブの作成を行った。1.化合物X-COOEtのインスリン分泌増強特性化合物X-COOEtが化合物Xと同様、新規メカニズムによる分泌増強効果を有することを確認するため、種々のアッセイを行った。具体的には、マウス膵β細胞株MIN6に化合物X-COOEtを処置し、細胞内cAMP濃度、カルシウム濃度の変化、PKA活性化およびEpac2A活性化を検討した。結果、化合物X-COOEtはいずれに対しても影響は少なく、化合物Xと同様に新規メカニズムを介していることが示唆された。2.ケミカルプロテオミクスに向けた化学プローブの作成。本研究では当初の研究計画に加えて、Halo-tagテクノロジーを用いる。HaloTagテクノロジーは、低分子リガンドと特異的な共有結合を形成する33kDaのタグタンパク質を利用し、化合物Xに付加したリンカーとタグタンパク質と結合させ、最終的に標的蛋白質を精製する。低分子リガンドとしてChloroalkane (CA)リンカーを使用する方針としたが、MIN6を用いたインスリン分泌実験の結果CAリンカーのみではインスリン分泌には影響せず、CAリンカーが本システムにおいて利用可能であることを示した。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画どおり、平成29年度は化合物X-COOEtを利用し、ケミカルプロテオミクスに必要である化学ブローブの作成に成功した。
平成28年度および平成29年度の研究成果により、ケミカルプロテオミクスに有用である化合物X-COOEtを同定に成功した。今後も、当初の研究計画に従って研究を遂行する予定である。1.ケミカルプロテオミクスに向けた化学プローブの作成Halo-tagシステムの他にも、アフィニティークロマトグラフィー法、光親和性タグを用いた方法、さらにClick chemistry法によるプロテオミクスも計画している。いずれの方法も化学プローブを作成する必要があるため、引き続き神戸大学大学院工学研究科応用化学専攻 岡野健太郎博士との共同研究により有機合成を進める。2.ケミカルプロテオミクスによる新規インスリン分泌増強関連蛋白質の同定化学プローブ合成の完了の後、ケミカルプロテオミクスにより標的蛋白質を同定する。具体的にはMIN6細胞溶解液と化学プローブを混合し、研究計画に記した方法にて結合蛋白質を精製する。溶出蛋白質はSDS-PAGEによって分離するが、この際、MIN6抽出液と同時に遊離化合物を処置したサンプルも用意し、競合阻害により結合量が減少するバンドを選択する。最終的に、トリプシン消化後、質量分析計により蛋白質を同定する。質量分析は神戸大学大学院医学研究科質量分析総合センターへの依頼により行う。
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Diabetes Obes Metab
巻: Suppl 1 ページ: 22-29
10.1111/dom.12995.