肝組織におけるインスリン抵抗性の改善に肝臓における炎症の関与が示唆されたためVNUT欠損マウスへのHFD負荷実験を行った。HFD負荷1年後の野生型マウスの肝臓では組織学的検討において、炎症・線維化などの非アルコール性脂肪肝炎様変化がみられたが、VNUT欠損マウスの肝臓では炎症細胞浸潤や線維化は有意に抑制され、IL-1βなどの炎症性サイトカイン発現は低下していた。 次に昨年度実施予定であった白色脂肪細胞の解析を行った。HFD 負荷1年後の脂肪組織において、ppparγは有意な変化を認めなかったが、VNUT欠損マウスではアディポネクチンの有意な増加を認めた。昨年度の解析においてFGF21の肝組織および血中濃度の増加が明らかとなったため、白色脂肪組織におけるFGF受容体およびβKlotho受容体シグナルの下流に存在すると考えられる既知の分子の遺伝子発現を評価したが有意な変化は認めなかった。次に炎症の評価のため、western diet負荷12週間後に脂肪組織の解析を行った。体重は野生型とVNUT欠損マウス間で有意な変化は認めなかったが、VNUT欠損マウスでは鼠径部皮下脂肪重量および平均脂肪細胞面積の有意な増加を認めた。一方で、精巣上体脂肪は組織重量、平均脂肪細胞面積に有意な変化は認めなかった。F4/80染色ではいずれの脂肪組織においてもF4/80陽性細胞が少なく定量的評価は困難であったが、鼠径部皮下脂肪におけるF4/80および炎症性サイトカインであるTNFαの遺伝子発現は抑制傾向であった。脂肪細胞の炎症に関して評価を継続するため、より炎症惹起作用の強い60%HFDを負荷し、解析を継続している。 以上の解析結果からVNUTにより制御性に放出されたATPは肝臓および白色脂肪組織における炎症細胞の浸潤および活性化を調節し、間接的に糖代謝を制御している可能性が示唆された。
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