我々は、インスリン受容体・IGF-1受容体遮断薬であるOSI-906をマウスに7日間投与することで、急速に全身のインスリン抵抗性が惹起されるモデルを報告した(Endocrinology 2014)。OSI-906を7日間投与すると、膵β細胞の増殖能が亢進し、内臓脂肪の著明な萎縮および脂肪肝を認めたが、各組織変化はいずれも、休薬7日後には正常状態に戻ることを見出した。 各組織の遺伝子発現解析の結果から、OSI-906投与により、膵β細胞では、インスリン抵抗性下における代償性増殖に重要とされているCyclinD2発現に変化はみられず、CyclinA2、 CyclinB1、CylinB2、CyclinB2、CyclinE2、Foxm1の発現が上昇した。また、脂肪組織では、脂肪分解に関与するAtgl、Lpl発現の亢進、レプチン発現の低下を認め、肝臓では、脂肪酸トランスポーターであるCD36発現の亢進を認めた。上記の各臓器における遺伝子発現変化は、いずれもOSI-906投与中止後に対照群と同等となった。以上より、OSI-906投与モデルにおける膵β細胞の増殖機構は、インスリン/IGF-1に非依存的な経路が示唆された。また脂肪組織ではOSI-906投与により脂肪分解が亢進し、肝臓では脂肪酸取り込みが亢進していることが示唆された。 また、このOSI-906投与モデルマウスに、脂肪萎縮糖尿病の治療薬として用いられているレプチンや経口糖尿病薬のDPP-4阻害薬およびSGLT-2阻害薬を投与した際の代謝・組織変化を解析した。前2者では、肝臓の脂肪化を改善し、後者では耐糖能の改善および膵β細胞量の増大効果を認め、いずれもインスリン/IGF1に非依存的な臓器特異的作用を有する可能性が示唆された。 以上の研究成果をScientific Report 2017に報告し現在印刷中である。
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