インスリン受容体・IGF-1受容体遮断薬であるOSI-906投与モデルを用いて、インスリン抵抗性下および解除後の膵β細胞、肝臓、脂肪組織の可塑的変化の分子機構を解析した。 OSI-906投与により、膵β細胞では、インスリン抵抗性下における代償性増殖に重要とされているCyclinD2発現に変化はみられず、CyclinA2、 CyclinB1、CylinB2、CyclinE2、Foxm1の発現が上昇した。また、脂肪組織では、脂肪分解に関与するAtgl、Lpl発現の亢進、レプチン発現の低下を認め、肝臓では、脂肪酸トランスポーターであるCD36発現の亢進を認めた。上記の各臓器における遺伝子発現変化は、いずれもOSI-906投与中止後に対照群と同等となった。以上より、OSI-906投与モデルにおける膵β細胞の増殖機構は、インスリン/IGF-1に非依存的な経路が示唆された。また脂肪組織ではOSI-906投与により脂肪分解が亢進し、肝臓では脂肪酸取り込みが亢進していることが示唆された。次に、このOSI-906投与モデルマウスに、脂肪萎縮糖尿病の治療薬として用いられているレプチンや経口糖尿病薬のDPP-4阻害薬およびSGLT-2阻害薬を投与した際の代謝・組織変化を解析した。前二者では、肝臓の脂肪化を改善し、後者では耐糖能の改善および膵β細胞量の増大効果を認め、いずれもインスリン/IGF1に非依存的な臓器特異的作用を有する可能性が示唆された。さらに、インスリン受容体基質であるIRS-2の欠損マウスおよび野生型マウスにOSI-906またはVehicleを7日間投与したところ、IRS-2欠損マウスにおいてもOSI-906投与によって野生型マウスと同等に、膵β細胞量および膵β細胞増殖は有意に増加した。以上より、OSI-906による膵β細胞増殖は、IRS-2非依存性の経路を介していることが示唆された。
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