研究課題
動脈硬化の病態において炎症が関与することは以前からよく知られているが,なぜ炎症が慢性的に持続して収束しないのかは,いまだ明らかではない.一方,炎症性サイトカインであるIL-1 の産生を制御する分子複合体であるNLRP3インフラマソームはコレステロール結晶や飽和脂肪酸などの危険シグナルにより活性化され,炎症の初期応答において重要な役割を果たすことが知られる.そこで,本研究ではインフラマソームが動脈硬化での炎症の遷延と収束過程において果たす役割の解明を目指し研究を行った.動脈硬化病変での炎症の遷延におけるインフラマソームの役割を明らかにするため,薬剤による誘導によりインフラマソーム構成分子の一つであるCasp1を欠損する遺伝子改変マウスを作製した.具体的にはApoe欠損マウスバックグラウンドにてCasp1flox/floxマウスとROSA26CreERT2(CreER)マウスを掛け合わせ,タモキシフェン誘導型Casp1欠損マウスを作製した.このApoe-/- Casp1flox/flox CreERマウスと対照のApoe-/- Casp1flox/floxマウスとに対して8週齢よりウエスタンダイエット(41%脂肪, 0.21%コレステロール)を負荷し,4週間後にタモキシフェンを投与し,遺伝子欠損の誘導を行った.さらに4週間の食餌負荷を行った後,動脈硬化形成の解析を行った.大動脈のSUDAN IV染色によって,動脈硬化病変の面積を評価したところ,4週間のCasp1欠損誘導によっては病変面積の差は認められなかった.Casp1欠損の誘導が動脈硬化病変における炎症の収束と病変の安定化に寄与するかについては,今後の研究課題である.本研究で確立した手法は,炎症の収束を目的とした標的遺伝子の探索に有効であると期待される.
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