研究実績の概要 |
ビタミンDは乾癬治療薬として用いられてすでに30年ほど経つにもかかわらず、その作用機序は未だ判然としていない。本研究では表皮特異的なビタミンD受容体(VDR)ノックアウトマウスを作出し、その乾癬様の皮疹と脱毛の原因を遺伝子の発現制御レベルで明らかにする。申請者はその責任因子の同定とVDRによる抑制機序の解明を目指す。 マイクロアレイ解析で発現増強をみとめたタンパク質を中心に、蛍光免疫組織染色法によりその発現領域から肥厚化との関連性を検討した。これらのうちS100A8は乾癬患者の皮膚で局所的な高発現が報告されており、肥厚化を惹起するシグナル分子としての働きを有する可能性がある。各細胞層のマーカー分子(Keratin14, Keratin10, Filaggrin, Loricrin等)との共染色によりその発現領域を比較し、肥厚化のステージとの相関性を検討したところ、Keratin10の発現する有棘層で顕著な肥厚化が観察された。驚いたことに、KOマウスではS100A8は退縮期の毛包内で異所性の発現亢進が認められた。またS100A8が走化性因子である可能性を考慮し、T細胞やマクロファージの浸潤の有無を検討したが、これらには顕著な違いを認めなかった。イミキモド塗布による乾癬モデルでは、その重症化度に若干の差異が認められた。 表皮VDRの欠損により、発現亢進されるS100A8遺伝子などの予測プロモーター領域をクローニングし、レポーター解析によりその活性化転写因子を探索した。その結果、特にNF-kB, AP-1による活性化が顕著であり、中でもS100A8遺伝子プロモーターに新規のNF-kB応答領域として151bpのエンハンサー領域の同定に成功した。以上の結果を受け、ゲノム編集技術を用い、S100A8ノックアウトマウスとS100A8レポーターマウスの作出に着手し、樹立に成功した。
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