研究課題
AT1受容体結合低分子蛋白(ATRAP)は、組織レニン-アンジオテンシン系(RAS)の過剰活性化に拮抗する内在性抑制分子である可能性がある。本研究では、メタボリック症候群(MetS)の基盤となる肥満症の発症・進展におけるATRAPの病態生理学的意義を明らかにするとともに、ATRAPに着目した新規分子標的治療法の可能性を検討した。5.4-kb Adiponectinプロモーターを用いたマイクロインジェクション法により作成した脂肪組織特異的ATRAP高発現マウス(TG)とその同腹子コントロールマウス(WT)に、8週齢から10週間に渡る高脂肪食負荷(HFD)を行った。マウスの体重増加、内臓脂肪量、脂肪細胞のサイズを、またインスリン抵抗性や耐糖能の評価はインスリン負荷試験と糖負荷試験を行い比較検討した。さらに、アディポカインの発現、脂肪組織におけるマクロファージ浸潤、酸化ストレスおよびグルコース輸送体(GLUT-4)を含めたインスリンシグナル伝達系はReal-time PCR法とWestern blot法を用いて比較検討した。TGはWTと比較して、通常餌飼育下において体重などの表現型に変化は認められなかった。しかし、HFDにおいて、TGでは体重増加、脂肪重量および細胞面積の増大、そしてインスリン抵抗性の増悪がWTと比較して有意に抑制された。またTGでは、HFDによる脂肪組織の炎症性アディポカインおよびNADPH oxidase mRNA発現の上昇が著明に抑制されるとともに、炎症細胞の浸潤も有意に軽減していた。そしてWTと比較して、TGの脂肪組織におけるGLUT4発現は有意に上昇するとともにp38-MAPK発現は有意に低下していた。以上より、脂肪組織におけるATRAPの高発現は、HFDによる脂肪組織RASの過剰活性化に拮抗し、肥満症の進展に抑制的に作用する可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
本年度の進捗として、ATRAPの脂肪組織におけるgain-of-functionの評価を概ね順調に行うことができた。今後はloss-of-functionの評価、および漢方薬とATRAP活性化治療との併用による統合医療の肥満症に対する治療効果の検討を行っていく。
Cre-loxp法により作成した脂肪組織特異的ATRAP欠損マウスを用いて、脂肪組織におけるATRAPのloss-of-functionの評価を行う。また、高脂肪食負荷した脂肪組織特異的ATRAP高発現マウスに防風通聖散を投与することにより、漢方薬とATRAP活性化治療との併用による統合医療の肥満症に対する治療効果の検討を行っていく。
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Journal of the American Heart Association
巻: 6 ページ: e004488
10.1161/JAHA.116.004488.
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