先天性甲状腺機能低下症(CH)は3000-4000出生に1名の頻度で認められる最も高頻度の先天性内分泌疾患である。CHを来す原因に甲状腺ホルモン合成障害があり、原因遺伝子としてDUOX2、DUOXA2、TPOがある。従来の遺伝子変異機能解析は、非甲状腺細胞を用いた一過性強制発現系という非生理的条件下での検討であった。本研究の目的は「内因性甲状腺ホルモン産生機構を利用したin vitroにおける甲状腺ホルモン合成遺伝子の新規機能解析系を樹立すること」である。つまりゲノム編集技術を用いてラット甲状腺濾胞細胞由来培養細胞株FRTL-5(内因性甲状腺分子としてDUOX2、DUOXA2、TPOが発現)の目的遺伝子を破壊したノックアウト(KO)細胞株を樹立し、変異解析系を確立する。この研究により、生体内での甲状腺ホルモン合成分子の働きをin vitroで観察し得る系の樹立を目指したいと考えた。 研究計画・方法としてIからVまでを考案した。I.予備実験としてFRTL-5を用い、TSH刺激下でのH2O2産生能、TPO活性を測定する。II. CRISPR/Cas9によるゲノム編集技術を用いてDuox2 KO-FRTL-5、Duoxa2 KO-FRTL-5、Tpo KO-FRTL-5細胞株を作成する。III. 上記3種類のKO株の表現型の検討を行う。IV.上記3種類のKO株にヒトcDNA発現ベクター(野性型)を導入し、表現型を検討する(救済実験)。V. 上記3種類のKO株ににヒトcDNA発現ベクター(変異型)を導入し、表現型を検討する。H28年4月より本年度の実施目標であるI.、II.を開始した。I. FRTL-5を培養し、野生型FRTL-5による至適細胞数、至適TSH濃度、刺激時間を検討した。細胞を播いた24時間後、TSH 0~100 U/L添加し、添加後Amplex Red試薬を用いてH2O2産生能、TPO活性を測定した。II. CRISPR/Cas9によるゲノム編集を行うため、Duox2 KO-FRTL-5、 Duox2/DuoxA2 KO-FRTL-5のガイドRNA作成を試みた。I.、II.ともに研究途中であったが、研究代表者留学のため、本科研費による研究継続を断念した。
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