研究課題
転写領域にマークされるヒストンH3の36番目リジン残基メチル化(H3K36me1/2/3)の転移酵素の一つであるWHSC1(NSD2,MMSET)はいずれも造血異常を伴う疾患である多発性骨髄腫、Wolf-Hirschhorn 症候群の原因遺伝子であるが、HSCの自己複製能と多分化能にどのように関わるか、その機能解析は乏しく明らかでない。そこで我々はWhsc1ノックアウト(KO)マウス及びコンディショナルノックアウト(cKO)マウスを用いて造血機能の解析を行った。Whsc1 KOマウスは生後致死であることから、胎生14.5日の胎仔肝を用い競合移植を実施した。その結果、末梢血及び造血幹細胞のキメリズム低下が観察できたことからWhsc1欠損HSCは造血再構築能が低下していること、そしてHSCの幹細胞活性にWhsc1の分子機能が重要であることが確認された。一方、Whsc1 cKOは、①造血発生に従って造血特異的にCre を発現させWhsc1を欠損させるVav1-Creの系と②タモキシフェン誘導的にWhsc1を欠損させるCre-ERtの系を用いて競合移植を行った。その結果、前者ではKOマウスと同様の結果が観察できたものの、後者では末梢血及び造血幹細胞のキメリズム低下の表現形が緩和される結果になった。これまでの研究からWhsc1はH3K36me2/3 修飾を介してDNAダメージ修復に関与することが明らかになってきていることから、cKOでみられた表現形の違いはWhsc1欠損してからの経過時間の違いによるDNAダメージの蓄積の違いであると想定している。
2: おおむね順調に進展している
造血特異的にMmsetを欠損できるVav1-Cre;Mmsetfl/flコンディショナルノックアウトマウスを育成し、生後8週で造血幹細胞(HSC)数等の造血解析をFACSを用いて実施したところ、コントロールマウスと比較してHSCの数が変わらない個体と増加している個体と2種類が認められ、少なくとも数の減少がみられないことを確認した。しかしながら同じマウスから骨髄を摘出し骨髄移植を実施した結果、主にリンパ球系への再構築能が低下しており、HSCの機能低下が示唆された。
これまでの報告から、MmsetはH3K36me2/3 を介してDNAダメージ修復に関与する可能性がある。また、HSCはDNAダメージが入ると分化に比較して自己複製の効率を上げることが明らかになっており、Vav1-Cre;Mmsetfl/flコンディショナルノックアウトマウスのHSC数が増加していることはMmset欠損マウスでDNAダメージが増加している可能性を示唆している。今後はHSCの網羅的遺伝子発現解析(RNA-Seq)を試みて実際にDNAダメージ修復因子が変動しているか、H3K36me2/3はどのように変動しているかを明らかにしてゆきたい。
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