研究課題/領域番号 |
16K19567
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
正本 庸介 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (30706974)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | アディポネクチン / 前白血病状態 / 造血幹細胞 |
研究実績の概要 |
Runx1Δ/Δ (Runx1flox/flox×Mx1-Cre)マウス、Asxl1G643fsマウスの造血細胞を、Ly5.1マウスの正常造血細胞と混合した上で野生型およびadipo-nullマウスに移植して、正常細胞と前白血病クローンが混在し、前白血病性クローンが増殖優位性を獲得するようなモデルの作製を試みている。ヒトにおいては非常に長期間を要する前白血病クローンの拡大過程を、マウスを使って短期間に観察可能なモデルを作るために、前白血病クローンの増殖優位性を誘導するような様々な遺伝毒性ストレスを与えているが、これまでの観察期間では前白血病性クローンの優位な増殖は見られていない。治療関連白血病の発症に関連するような、アルキル化剤、トポイソメラーゼ阻害剤などの薬剤も用いて、これまでよりも強い遺伝毒性ストレスを与えることで、早期に前白血病モデルの確立を目指す。 また前白血病モデルの作製と平行して、遺伝毒性ストレスが加わった時のadiponectinの動態、および造血細胞に対する影響に関する解析を行っている。Adiponectinは定常状態では骨髄脂肪細胞から分泌されて作用しているが、遺伝毒性ストレスが加わることによって全身循環から骨髄への移行性が亢進し、骨髄局所のadiponectin濃度が上昇することによって、造血細胞に対するadiponectinの作用が高まることを明らかにした。また遺伝毒性ストレスが加わった時に、adiponectinが正常造血幹細胞のAKT-mTOR経路を活性化することによって、quiescentな造血幹細胞の活性化を促進することを明らかにした。今後は前白血病性造血幹細胞と正常造血幹細胞の応答の差異を明らかにしていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前白血病状態のモデルとして、Runx1Δ/Δ、Asxl1G643fsマウスの造血細胞を、正常造血細胞と混合し、野生型およびadipo-nullマウスに移植して、正常細胞と前白血病クローンの混在するモデルの作製を試みた。移植後無処置では前白血病クローンの拡大は見られなかった。これまで遺伝毒性ストレスを加えることで前白血病性クローンの増加を誘導することが報告されているため、より生理的なモデルを構築するべく、比較的弱い遺伝毒性ストレスであるcytarabineの投与、あるいは少量放射線照射などを行った。これまでの最長6か月の観察期間では前白血病性クローンの有意な増加は見られていないが、もともと長期の観察が必要と考えられていたこともあり、経過を観察する。今後はより強い遺伝毒性ストレスを加えることで、モデルを作製する予定である。 前白血病モデルの作製と平行して、遺伝毒性ストレスが加わった際にadiponectinが骨髄のどこから分泌され、造血細胞にどのように作用するかに関して解析を行った。定常状態では骨髄造血環境、特に脂肪細胞からadiponectinが分泌されていることで造血に対して作用することを明らかにしていたが、ストレスが加わる状況では、全身循環から骨髄へのadiponectinの透過性が亢進することによって骨髄中のadiponectin濃度が上昇し、造血細胞に対するadiponectin作用が亢進することが明らかになった。またadiponectinが遺伝毒性ストレスが加わった際に正常造血幹細胞のAKT-mTOR経路を活性化することで、正常造血幹細胞のquiescenceからの脱出を促進することを明らかにした。 このように前白血病モデルの作製は時間を要しているが、adiponectinの作用機序の解明は順調に進捗しているものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
ヒトにおいては前白血病性クローンが生じても、臨床的に明らかな骨髄異形成症候群、あるいは急性白血病に移行する確率は低く、移行した症例でも非常に長時間にわたる遺伝子変異の蓄積を必要とすることが想定されている。今回平均寿命が2年しかないマウスを用いつつも、できるだけ生理的な条件で前白血病モデルを作製するに当たって、われわれは代謝拮抗剤であるcytarabineの投与や少量放射線照射などを行っているが、これまでの観察期間では、前白血病性幹細胞が正常造血幹細胞に対して増殖優位性を拡大し、前白血病クローンが拡大するようなモデルは得られていない。そこでこれまでに作製したマウスのより長期間の経過を観察するとともに、若干非生理的ではあるが、アルキル化剤、トポイソメラーゼ阻害剤など、治療関連白血病と関連するような、より強いDNA障害作用を有する薬剤も用いて前白血病クローンが拡大するような条件を検討し、前白血病モデルの確立を目指す。これらのマウスに対してadiponectinの補充、あるいは下流シグナルの活性化作用を有する小分子化合物を用いて、前白血病モデルの進行を抑制するような治療方策を探求していく。 さらに正常造血幹細胞と前白血病性造血幹細胞に対するadiponectin作用の詳細、特に分子機構の差異を明らかにするために、これまでの解析で正常造血幹細胞において明らかにしているadiponectinのシグナル伝達経路をさらに詳細に解明するとともに、Runx1Δ/Δ (Runx1flox/flox×Mx1-Cre)、Asxl1G643fsマウスを用いて、前白血病性造血幹細胞におけるadiponectinシグナルの正常造血幹細胞との違いを明らかにしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
人件費が想定よりも安価に収まったため、35305円の残額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度の海外学会での発表に使用する予定である。
|