研究課題
血小板活性化受容体CLEC-2及びそのリガンドPdpnの欠損マウスの表現型解析からCLEC-2/Pdpnシグナルが肺中皮及び肺胞myofibroblastの分化に関与することが、我々の先行研究で明らかになっている。昨年度は血小板から放出される顆粒内容が重要であることを明らかにし、さらに肺のどのPdpn発現細胞が重要なのか調べるために組織特異的Pdpn欠損マウスの作製を行った。今年度は①血小板顆粒内容中の肺中皮、肺胞myofibroblast分化促進因子の同定と②肺胞形成に必要なPdpn発現細胞の同定を行った。①血小板顆粒内容中の肺中皮、肺胞myofibroblast分化促進因子:昨年度実施した肺中皮培養細胞を用いた結果からTGF-betaの関与が示唆されたため、培養細胞に対してTGF-beta単独あるいは血小板顆粒内容にTGF-beta中和抗体を入れるなどしてTGF-betaの関与を調査した。予想通り、TGF-beta単独で肺中皮から肺胞myofibroblastへの分化が促進し、血小板顆粒内容にTGF-beta中和抗体を入れることで分化促進作用がキャンセルされた。in vivoで効果を調べるために妊娠マウスにTGF-beta中和抗体を投与したところ、CLEC-2欠損のような胎仔肺形成異常が誘導された。②胎生期肺のPdpn発現細胞は肺胞上皮、肺中皮、リンパ管内皮であり、それぞれの組織特異的Pdpn欠損マウスを作製した。3種のPdpn欠損マウスのうち、CLEC-2欠損マウスと同様の表現型がリンパ管内皮特異的Pdpn欠損マウスのみで観察され、血小板CLEC-2の相手がリンパ管内皮Pdpnであることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
予定していた血小板顆粒内容中の肺中皮、肺胞myofibroblast分化促進因子としてTGF-betaを同定することに成功し、さらに昨年度から進めていた3種の組織特異的Pdpn欠損マウスの作成から肺中皮、肺胞myofibroblastの分化に必要なPdpn発現細胞としてリンパ管内皮細胞の同定にも成功した。CLEC-2欠損マウスの表現型等、様々な情報から、当初は肺胞上皮や肺中皮のPdpnが重要であると予想していたが、その予想に反してリンパ管内皮細胞が重要であることが判明した。以上、今年度予定していた計画が全て順調に進み多くのデータが得られた。
平成30年度はこれまで得られたデータを元に、CLEC-2欠損マウスに対して何らかのアプローチを行い、肺形成異常をレスキューできるか検討する。方法としては胎仔血中あるいは胸腔への野生型血小板、血小板顆粒内容、TGF-betaの投与を予定している。さらに本計画で得られたデータを元に論文を作成する。
肺発生に影響を与える血小板顆粒内分子の同定において、protein arrayによる網羅的解析を行うことを予定していたが、血小板顆粒内分子としてよく知られる分子をいくつか検討した結果、TGF-betaの関与が示唆されたため網羅的解析からTGF-betaにフォーカスした解析に切り替えた。そのため予定していた金額を下回った。次年度使用額(15,860円)はリコンビナントTGF-beta1の購入に充てる。平成30年度研究費の使途は当初の予定通り、マウスジェノタイピング、組織切片作製用消耗品、CLEC-2リコンビナントタンパク質作製及び学会旅費、マウス飼育管理費、論文投稿に充てる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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