研究課題
本研究は、染色体研究の新ツールになり得るゲノム編集技術を駆使し、複数遺伝子同時欠損ヒトiPS細胞の樹立を進め、これを造血細胞へ分化させてin vitroでMDSを再現する、造血細胞異形成評価システムを確立することを目的とする。平成28年度は、1) CRISPR/Cas9システムを用いての7番染色体大領域欠失ヒトiPS細胞株(7q-iPS)の樹立、2) サイトカイン培養により各種造血細胞に分化させて形態や増殖能を評価する手技の確立を目指した。まずはじめに1)を樹立するため、理化学研究所で提供している健常人の上皮細胞から樹立されたiPS細胞であるSB201細胞を入手し、7q21バンド近辺のヒトのMDS症例で高頻度に欠失が見られる領域を標的に欠失変異の導入を試みた。iPS細胞への欠失変異の導入には、CRISPR/Cas9システムのツールであるgRNAオリゴ挿入部位とCas9の配列を連結させたpX330プラスミド(Addgene)を使用した。欠失させたい領域の両端を標的とする2種類のguide RNA/Cas9プラスミドと、約1kbずつの相同領域の間にCre-loxPで薬剤耐性遺伝子を挟んだターゲッティングベクターの計3種類をNeonシステムによるエレクトロポレーション法で細胞に導入し、現在薬剤セレクションを行いクローン化を試みている。また、2)のために、まずiPS細胞(SB201細胞)をEmbryoid body形成法により各種造血細胞に分化させる系を立ち上げ、細胞形態の確認、表面マーカー解析、コロニーアッセイを試み、細かい手技の安定化を行った。
2: おおむね順調に進展している
実験準備が順調に進んだため、機材等による大幅な遅れもなく、実験は順調に進展している。
平成29年度は樹立した7q-iPS細胞をサイトカイン培養により各種造血細胞に分化させ、形態異常や増殖能、分化能を指標に、欠失領域の造血細胞異形成への関与について評価する。特にMDSで観察される過分葉型好中球やPheud-Pelger核異常、MK細胞の核形態異常を注視し、7q- iPS細胞と野生型iPS細胞を比較検討する。また、7q-iPS細胞のオフターゲット切断について検討を行う。CRISPR/Cas9システムは手軽に利用できる反面、切断標的配列の認識が甘いという悪い点があり、意図しない変異が挿入される可能性が高い。そのため、オフターゲット切断を鋭敏に検出する低コストのシステムの開発と、オフターゲット切断が低頻度な人工ヌクレアーゼへの変更が必要である。オフターゲット欠失の検出するシステムはマイクロアレイCGH法が簡便であるが、クローンをひとつずつ解析するのはコスト高であるので、多数のクローンより抽出したDNAを混合して解析し、コスト減をはかれるか検討する。オフターゲット切断が高頻度に生じる場合、オフターゲット切断が生じにくいPlatinam-TALENシステムへの切替えを検討する。さらに、正常iPS細胞と比較して細胞形態異常や分化能の抑制などのMDS様表現型が観察された7q-iPS細胞は、ヒト化マウスに骨髄移植を行い、生着の可否や末梢血中の各種造血細胞の比率、形態確認について継時的に観察し、造血系構築機構への影響や白血病発症への寄与について正常7q-iPS細胞を移植したマウスと比較検討を試みる。マウス移植モデルでの結果から、造血系への影響がより強く観察される7q-iPS細胞を選択し、欠失領域内に存在する遺伝子群の探索を通じて、MDS発症に関与する新規関連因子の同定を目指す。
一部実験計画の遅れによる。実験に使用予定の試薬の金額が差額を生じた。
実験の進行に伴い、差額を使用する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件)
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