研究実績の概要 |
ヒトの獲得免疫応答の主役を担うT細胞はT細胞受容体(TCR)の遺伝子再構成により膨大なる多様性を獲得し病原体や腫瘍の発生および進展に対する抑制的な機能を発揮している。本研究では、次世代シークエンサー(NGS)とシングルソーティング技術を用いてウイルスおよび腫瘍抗原を特異的認識するTCRの網羅的・定量的解析と特異性・機能解析を行った。 健常者の末梢血に存在するウイルス抗原(サイトメガロウイスル[CMV]、EBウイルス[EBV])、腫瘍抗原(W-11、MART-1)特異的T細胞群を試験内で各抗原ペプチドで感作増幅させ、テトラマーを用いて検出し、シングルセルソーティング技術を用いて個々のT細胞が有するTCRα鎖とβ鎖のペア遺伝子配列の同定を行い、全108種のTCRαβペア遺伝子配列(CMV:51種, EBV: 27種, WT-1: 12種, MART-1:18種)を同定した。さらにCMVpp65 NLVを特異的に認識する各TCRのNLVペプチドとの結合力を検証したころ、感作増幅させたT細胞における各クロノタイプの存在頻度とそれらが保有するTCRの結合力には正の相関性を認めた。また増幅性が高く定量的に存在頻度の高い上位のクロノタイプほど、異なる個人間で共有性の高いTCR(shared TCR)を有する傾向認めた。T細胞サブセットごとにshared TCRを有するクロノタイプの頻度を解析したところ、自己複製能と多分化能を有するStem cell memory T細胞サブセットにおいて特にshared TCRを有するT細胞クロノタイプが多く存在することが確認された。これらの結果は、CMV抗原を特異的に認識するT細胞群には、TCRの機能性および共有性に基づいた階層性が存在することを示唆するものと思われる。
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