研究課題
HTLV-1潜伏感染により発症する成人T細胞白血病-リンパ腫(ATL)の発症メカニズムの一つに、HTLV-1ウイルス抗原の発現抑制による免疫逃避機構が知られている。本研究ではクロマチン免疫沈降と次世代シークエンサー(ChIP-seq)を用いてHTLV-1プロウイルスのヒストン修飾パターンを明らかにし、さらに転写を制御する分子機構を同定する。1) 末梢血単核球(PBMC)検体の収集: 現在までにHTLV-1キャリア 57検体、くすぶり型ATL 20検体、慢性型ATL 8検体を収集した。2) 細胞株を用いたChIP-seq解析: HTLV-1キャリアのモデルとなるTBX-4B細胞株とATL細胞株であるEDを用いてChIP-seqを行い、HTLV-1プロウイルス全長のヒストン修飾パターンを観察した。TBX-4Bと比較してEDでは転写活性に関わるH3K4me3とH3K9Acのヒストン修飾は5’LTR側では少なく、3’LTR側では多くみられた。3) 転写制御機構の同定: 転写制御機構を明らかにするために、ヒストンメチルトランスフェラーゼであるMLL、EZH2、SETDB1、クロマチンリモデリング因子のBRG1、転写因子であるAML1の抗体を用いてChIP-seqを行った。TBX-4Bと比較してEDでは、5'LTR側でBRG1とAML1のシグナルが減少していることが確認できた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は二つの細胞株を用いてChIP-seqを行い、ヒストン修飾パターンの比較、転写制御機構に関わる因子の同定を行った。本年度に集積した患者PBMC検体を用いて、次年度にこれらの解析を行う。
非症候性HTLV-1キャリアとATL患者のPBMC検体を用いて、ChIP-seqを使ったプロウイルスのエピジェネティクス解析と転写制御機構に関わる因子の同定を行っていく。また、研究の幅を広げ、HTLV-1プロウイルスの転写制御とATLの発症メカニズムをより詳細に解析するためにRNA-seqを行う。以前我々が報告したプローブを用いたエンリッチ法をRNAに応用して、HTLV-1プロウイルスのトランスクリプトームをより高感度に観察することが可能となる(Miyazato P, Sci Rep, 2016)。これを用いて、HTLV-1の転写制御パターンのみならず、トランスクリプトームをキャリアとATL患者で比較し、これらの疾患の発症メカニズムとの関連を明らかにする。
本年度は患者検体を収集し、細胞株を用いてヒストン修飾パターンと転写制御の因子を同定するためにChIP-seqに用いる抗体の探索を行った。患者検体を用いたChIP-seqを行わなかったため、予定額よりも少ない支出となった。
患者検体を用いたChIP-seqを行うため、クロマチン免疫沈降用抗体、クロマチン免疫沈降用試薬、次世代シークエンス関連試薬の購入費として使用する。特に次世代シークエンサー関連試薬は高価なため、前年度よりも多くの購入費が必要となる。そして、これまで得られた研究成果を学術論文として発表するための諸経費(論文校正、投稿料、掲載料など)として使用する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 3件)
Blood
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巻: 68 ページ: 1099-1108
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