研究課題
腫瘍遺伝子であるHMGA2は、健常成人の体細胞ではほとんど発現していないが、骨髄増殖性腫瘍患者の30-40%で造血細胞において高発現しており、中でも最重症の骨髄増殖性疾患である骨髄線維症の患者造血細胞においては、ほぼ100%高発現が認められることが報告されている。HMGA2を過剰発現するトランスジェニックマウスおよびヒトの骨髄増殖性腫瘍で最も多く認められるドライバー変異であるJAk2V617Fトランスジェニックマウスは、それぞれ単独で軽症の骨髄増殖性腫瘍を発症するが、両者を交配することで、重症の骨髄増殖性疾患を発症し、短期間で死亡することを示した。このマウスは、単独のトランスジェニックマウスと比較して重症貧血を認め、骨髄細胞では腫瘍幹細胞の増加やJAK-STAT系の活性化を示しており、病態の悪化に寄与していると考えられた。また、幹細胞分画および赤芽球分画のRNAシークエンスで、幹細胞分画ではLMO1などの腫瘍遺伝子の上昇、Myc-pathwayやJAK-STAT系の活性化が確認されたのに対して、赤芽球ではアポトーシス関連経路や5q-症候群で上昇する遺伝子群の活性化が確認された。また、患者検体のtarget sequenceなどを施行し、HMGA2は抑制因子であるMIRlet7の低下や、EZH2・ASXL1などのポリコーム関連因子の変異によって発現が上昇していることがわかった。HMGA2ノックアウトは、内因性HMGA2上昇をきたすマウスであるJAK2V617Fトランスジェニック-EZH2ノックアウトマウスにおいて、骨髄増殖性疾患の病態を改善することをも示した。以上より、HMGA2は骨髄増殖性腫瘍の重要な治療標的になり得ると考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
HMGA2とJAK2V617Fマウスの交配による表現型を示しただけでなく、ノックアウトによって病態が改善することや、患者におけるHMGA2発現上昇の機序の解明も行うことができたため。また、複数回の学会発表の後、論文を投稿し、現在in revisionであることから。
治療への応用を目指して、HMGA2阻害剤の開発に進むと同時に、骨髄増殖性腫瘍の有望な新規治療薬と考えられているブロモドメイン阻害剤(JQ1)の投与によってHMGA2の抑制が得られているかを検証する。
RNAシークエンスなどの高額実験の試薬代金が後払いであるため。
次年度中に、上記の支払い、投稿論文のrevisionへの対応、前述の新規HMGA2阻害剤の検索にて使用する予定である。
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http://www.fmu.ac.jp/home/hemato/kenkyu.html